#コロナを経た今こそ、 顧客とダイレクトにつながる「D2C」ビジネスへ


既存のビジネス起点での成功は難しいD2C

コロナウイルスの影響で始まった外出自粛要請を経て、ますます注目を浴びている「D2C(Direct to Consumer)」。“小売店を介さず顧客に直接販売できるチャネル”として、導入する企業も増えていくことが予想されます。しかし、D2Cビジネスを始める際、 “直接販売できるチャネル”という認識だけで構築すると、ECサイトと大きく変わらない新しいチャネルができるだけに留まってしまいます。近年、そのようなブランドをよく見かけるような気がします。

D2Cビジネスを構築する上で最も重要なのは、“徹底的な生活者起点でのビジネス構築”です。既存のビジネスの拡張・延長、つまり、“企業起点”“プロダクトアウト”ではなかなか成功しません。過去の成功体験や企業の歴史等の概念を一旦排除して、徹底的な“生活者起点”に立つことが重要です。

通販イメージ

徹底的な“生活者起点”の重要性

では「徹底的な生活者起点」とは何でしょうか。
それは、
①生活者になりきること
②生活者が驚き、感動し、共感する状態を用意すること
③生活者と仲間になること

例えば、米メディアFast Company社が選ぶ2015年最もイノベーティブな企業ランキングでAppleやGoogleをおさえて1位を獲得したD2C眼鏡ブランド「Warby Parker」は、これらの生活者起点を実践しています。

〜①生活者になりきること〜

「Warby Parker」の誕生は、創業者が学生の時に眼鏡を旅行先で失くしてしまい、購入しようとしたところ高額すぎて購入できず、不便な思いをしたという「自らの体験」に基づいています。その体験から、高品質かつスタイリッシュな商品を、中間コストを抑えることにより適正価格で販売することを実現し、信頼・共感を得て成長し続けています。

〜②生活者が驚き、感動し、共感する状態を用意すること〜

「Warby Parker」は、お好みのメガネを5本まで無料で試着でき、友達に自慢したくなるようなおしゃれなパッケージデザインは、まさに驚きと感動をもたらしてくれます。
さらに「見る権利はすべての人にある」という理念のもと、途上国への寄付や活動支援などを行っている点に共感する人が多いのも頷けるでしょう。

〜③生活者と仲間になること〜

また「Warby Parker」では、送られてきたメガネを掛けてSNSに投稿すると、フォロワーからアドバイスが届きます。ここでは、投稿する人、選ぶ人、アドバイスする人みんなが「Warby Parker」の仲間。コメントの拡散からセールストーク、そして新商品のヒントまで、すべてを生活者が行っているのです。

これら3つの仕掛けが入っていることで、お金を掛けた広告や、今までのような商品開発のための人やコスト、時間も必要ありません。

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D2CのPDCAサイクルとは

D2Cビジネスではカスタマージャーニー(図A)を円のように捉え、あらゆる顧客接点で最適な体験を用意。ファンになった顧客が別の顧客へ拡散することを繰り返し、成長していきます。そのためにも、顧客との接点は重要であり、一貫性を持った顧客体験の創造と、顧客からの意見を直接収集することで、商品の改善を繰り返しています。そうすることで、生活者起点の姿勢が信頼を呼び、好きになってもらう (ファン化)・LTV(生涯顧客価値)向上に結び付いていく仕組みなのです。

D2Cを始めるにあたって重要な3つのポイント

では、顧客に好きになってもらう (ファン化)・LTV(生涯顧客価値)向上のためにはどのようにすればよいのでしょうか?D2Cビジネスを立ち上げる際に、重要な3つのポイントをご紹介します。

1. 商品を開発することから始めない

上述のとおり、D2Cはあくまでも生活者起点のビジネスモデル。「商品を売る方法」を考えるのではなく、生活者のところに行き、不満や問題、驚きや喜びといった体験を一緒にすることから始まります。それはどのような解決をしてくれるのか、どのようなことで喜ばせてくれるのか、どのような値段・売り方なのか。まさに「あったらいいな」を集めることから始めるのです。
今までのようなインタビュー調査や、WEB調査とは違い、文字通り、生活者のSNSコミュニティの中に入っていくことが、生活者起点に立つことにつながります。

2. 明確にターゲットを絞り込み判断基準を作ること

生活者の中に入ることで、提供する商品やサービス、その売り方がカタチになってきたら、大事なことは2つ。

1つ目は、ターゲットをイノベーター層に絞り込むこと。イノベーターたちは、社内の決裁者が「え!こんなのでいいの?」と思うくらい決裁基準から外れるものを好みます。彼らを判断基準にすることで、より競争優位性のあるビジネスを構築できます。

2つ目は、ミレニアル世代であること。D2Cビジネスはあくまでもオンラインを通しての顧客接点が軸となるため、ターゲットはデジタルネイティブであるということが求められます。しかもこの世代はソーシャルネイティブでもあり、共感や応援が購入動機につながっていきます。

3. ミニマムスタート、まずは一旦ローンチをすること

D2Cビジネスは顧客と共に育てていくことが前提のビジネスです。そのため、商品数やサービスを完璧に整えることに注力するのではなく、最低限の商品・仕組みの構築で一旦公開することをお勧めします。つまり、走りながら考え、顧客と話をして、良いと思ったら変えていく。その後、顧客のフィードバックやリアクションを収集し、そのデータを元にPDCAを回すことが重要です。お店自体もコストもミニマムで始めること。その理由は、PDCAサイクルをデイリーで回さなくてはいけないからです。

PDCA

D2Cこそ、これからのブランディング

D2Cは単なるECではありません。生活者を最初と最後に置いたサプライチェーンの構築により成立しています。極端に言えば、商品開発もセールスも広告も生活者によるものということ。ここで重要なことは、こうして出来上がったブランドは、「生活者が築き、生活者が支持する最強のブランド」になるということです。そして、構築されたブランドはリアルチャネルでも活かせ、さらにこの間に収集した豊富なデータを、既存のビジネスへ活かすことも可能です。
生活者・顧客を中心にすることで、従来のような既存チャネルに対する心配や、ブランディングに投じる莫大な広告費、競合企業との性能差などを気にする必要もなくなるのです。「Warby Parker」が「2015年最もイノベーティブな企業ランキング」でAppleやGoogleをおさえて1位を獲得したことが、そのことを証明しています。

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株式会社 YRK and
ブランドクリエイティブユニット(BCU)
ブランディングストラテジスト
寺川 美波 Terakawa Minami
Writer

株式会社 YRK and
ブランドクリエイティブユニット(BCU)
ブランディングストラテジスト
寺川 美波 Terakawa Minami

2019年に株式会社YRKand入社。ブランドクリエイティブユニット(BCU)のブランディングストラテジストとして活動。女性視点ならではの洞察力で、生活者を理解し、新たな価値を生み出し続けるマーケター。クライアントと生活者との共創型コンサルティングで、クライアントをゴールに導く。
また、デジタル領域のディレクター&デザインまでの豊富な実務経験を武器に、D2Cビジネスのコンセプト・プロダクト開発も得意とする。