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Index

  1. 本当に、新規ビジネスにブランディングは必要なのか?
  2. 新規ビジネスは根幹をデザインすることから始まる(WHYの明確化)
  3. WHYの明確化と“実装”の手法
  4. おわりに

新規ビジネスの重要性が叫ばれる昨今。とにかくまずは始めることが大事だといわれるものの、「とはいえ何からやったらいいの?」そんなスタートアップ当事者の方は多いのではないでしょうか。

そんな状況でさらに「これからの新規ビジネスにはブランディングも必要だ」なんて上層部から言われた日には、混乱して思考停止。あれこれ考えるけれど、何も進んでいる実感がないままに数カ月が過ぎ去った。
もしかして、そんなご経験をされている方もいらっしゃるかもしれません。

今回の記事では、新規ビジネスとブランディングの関係を紐解き、まずファーストステップとして何が大切か、というお話ができればと思います。

本当に、新規ビジネスにブランディングは必要なのか?

この問いに答えるにあたって、まずブランディングについて、いま一度考えてみたいと思います。今でも多くの人が、ブランディングとは「見た目と伝え方を整えること」つまり「狭義のデザインである」と捉えています。

“商品(サービス)は素敵な見栄えになった!WEBサイトも準備できたし、かっこいい広告も撮影した!・・・よし、ブランディングできたし、世の中にローンチだ!”

・・・このビジネスは、市場において瞬間風速的に健闘するかもしれません。しかし、現代社会はあまりにも多くのモノゴト、膨大な情報、そして多様な価値観で溢れ返っています。すぐに似たような商品やサービスが現れて淘汰されるか、限定的な市場浸透で留まるかで、そう長くないうちに、誰もがこのブランドを忘れ去ってしまうでしょう。なぜなら、ビジネスの根幹のデザインに意識が向いていなかったからです。

ブランドとは人々の頭の中で構築されるもの。ビジネスの一挙手一投足が積み上がり、人々の中にブランドの印象が創り上げられるのです。そのため、すべてのビジネス活動に一貫性がなければ、ブランドの印象は曖昧になり、人々の心に残ることも、ましてや選ばれることもありません。表層部分のデザインだけでは限界があるのです。

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そういった意味で、ブランディングとは本来、ビジネスをスタートさせたその時から「始まっている」ものです。「なぜこのビジネスを行うのか」「このビジネスにしかない世の中への提供価値は何か」「関係するメンバーはどこに向かい・何を目指すのか」といった要件から、「誰に対して」「何を生み出し」「どのように届けるのか」といった要件までを、きちんと設計・定義すること、つまり、ビジネスの川上から川下までをデザインすることが、本質的な意味でのブランディング。そう、新規ビジネスにこそブランディングの正しい認識と取組みが必要なのです。

新規ビジネスは根幹をデザインすることから始まる(WHYの明確化)

ブランディングの重要性は分かったけど、じゃあどうしたらいいの?
ここからは、この疑問にお答えしていきます。

新規ビジネスで陥りがちな罠の一つが、技術や資産など、自社の強み「だけ」に立脚してビジネスを組み立ててしまうことです。たとえば「技術をどう形にするか」や「場当たり的なアイデア」のみに終始してしまうと、それはただの自己満足で終わり、人々や社会から求められることもないでしょう。偶発的に市場を獲得することもあるかもしれませんが、その打率は限りなく低いと言えます。

では、どうすればいいのか。ビジネスの最上段であり根幹に位置するものを、われわれはWHYと呼びます。これから始めるビジネスは「社会に対して」どのような「存在意義」があり、「提供価値」を持ち、「実現目標(ビジョン)」を持つのか。これらWHYが明確になったとき、はじめてビジネスは社会と接点を持つことになり、市場機会が生まれます。

つまり、新規ビジネスを立ち上げる時点で、人々や社会がどのようなインサイト(潜在的な望みや課題など)を持っていて、それらに対して自分たちはどのような価値を提供できるのかをきちんと考え抜き、明らかにすることが、新規ビジネスを成功に導いてくれるのです。

これがビジネスの根幹をデザインするということです。

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さらに明確化したWHYは、その後のビジネスの成長において、大きな3つの役割を果たし、ビジネスに持続可能性をもたらしてくれます。

WHYは・・・

  • ▶リーダーシップを発揮する
  • ▶差別優位性を生む
  • ▶指針・判断基準になる

今回は「Apple」の事例を軸に、これら3つの観点を紐解いてみようと思います。

Appleはあるキャンペーンの中で、「Appleは、世界を変えられると本気で信じる人たち(クレイジーな人たち)のための道具を作る」という旨のメッセージを発信しました。1997年に実施された「Think Different」キャンペーンです。Appleの創業当時の理念は「Change the world one person at a time.(世界を変えよう、1人ずつ)」。AppleはこのThink Differentキャンペーンで創業当初の理念・存在意義を改めて明確化し、結果、存亡の危機からの大復活を遂げました。その後は市場トップランナーとして君臨し続けていることは言わずもがなですね。

WHYはリーダーシップを発揮する

社会に対しての強烈な使命感を伴うAppleの存在意義が改めて明確化されたことで、存亡の危機にあったAppleの社員は鼓舞され、奮起しました。もちろん、スティーブジョブズの功績によるところも大きいですが、明確化された理念=WHYなくしてこのような現象は起きなかったでしょう。社員は一人ひとりが誇りと帰属意識をもって、会社の使命を自分の使命と捉えて働いたのです。結果、イノベーティブで洗練された製品が次々と生み出され、市場での存在感を大いに高めました。

さらに帰属意識を持つのは社員だけではありません。WHYに起因する「世界を変える」「現状に挑戦する」「ユニークである」というApple独自の「ストーリー」に対して、生活者は共感し、その一員でありたいと感じたのです。そして、長くApple製品やサービスを愛用し続けるようになりました。

このように、明確で使命感を持ったWHYは優れたリーダーシップを発揮して人々を惹きつけ、社員を鼓舞し、市場を牽引するのです。

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WHYは差別優位性を生む

すでに上述したWHYに起因するApple独自の「ストーリー」、これこそが差別優位性の正体です。ストーリーが差別優位性になるとはどういうことか。

高度経済成長期、生活者は物質的な豊かさを追求してきました。そこでは、利便性が高いモノが求められてきました。つまり生活者は「機能」を欲しがったのです。しかしその後、現代にかけて経済が成長する中で、多くのモノは機能面での差が生まれなくなってきます。

そこで生活者が求めたのが情緒性、つまり「デザイン」です。そしてさらに時間は進み、今現在はどうでしょうか。多くの生活者が物質的に満たされており、ほとんどのモノゴトが機能はおろか、デザインも含めてコモディティ化しています。

この段階で生活者が求めたものが、モノゴトを買う理由であり意味、つまり「ストーリー」だったのです。機能やデザインが一緒ならば、モノゴト・ブランドに対して「いかに共感できるか」「いかに自分にとっての意味を感じるか」ということが、生活者の購買における判断基準になり始めているのです。

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スマートフォン市場は、機能やデザイン面での画一化が進み、現在ではほぼ完全にコモディティ化しています。その中でAppleが選ばれ、愛され続け、シェアトップで居られる理由がここにあります。

つまりWHYに基づく、他社が模倣できない独自のストーリーを保有することが人々を惹きつけ、市場において大きな差別優位性を持つことになるのです。

WHYは指針・判断基準になる

「Think Different」キャンペーンを行った1997年、Appleは当時取り扱っていたプリンタ、サーバ、モニタ、デジタルカメラ、など、コンピュータ関連の製品を切り捨て、コンピュータとOSというコア事業に専念しました。それはなぜか。

「世界を変えよう、1人ずつ」。Appleはこの理念を改めて追求した結果“最高のモノを創る、最高のコトをやる”という思想に行きつきました。そして最高のモノをつくるために、最高のコトをするために、コア事業に専念してリソースを重点投下したのです。

さらに、Appleの理念は「最高のモノ、最高のコトはシンプルで美しくあらねばならない」という思想のもと、製品とサービスにまで落し込まれています。アップルの製品やサービスはどんなものかと問われれば、「洗練されたデザイン」「高機能なのにこの上なくシンプルな操作性」といったイメージがすぐに思い浮かぶのではないでしょうか。

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Appleは組織の在り方から、製品・サービスの在り方、そしてその他すべての企業活動においても、一貫した態度と行動をとり、結果としてブレの無い強靭なブランドを築き上げることに成功しました。これはAppleがWHYという指針・判断基準に忠実にあり続けた結果なのです。

このAppleの事例からの示唆は、ビジネスを始める時点でWHYを明確化することができれば、それがビジネスの基盤となり、成長を生み出し、ビジネスは持続可能性を獲得することができるということです。そう、WHYこそが新規ビジネスのブランディングにおけるコアなのです。

WHYの明確化と“実装”の手法

WHY、WHY・・・と言い続けてきましたが、こうなると気になることは、「じゃあ実際はどうやるの?」ということかと思います。私たちが新規ビジネスに伴走する場合は、大きく下記の2つのポイントをもってプロジェクトを立ち上げ、WHYを明確化します。

①新規事業開発コアメンバーだけでなく、たとえばマーケ部、広報部、技術開発部、商品・サービス企画部など、新規事業に関係する部署から成る連帯チームを編成すること

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②編成した連帯チームに私たちがファシリテーターとして加わり、ワークショップやディスカッションを行いながら対話を通じてWHYを明文化・可視化すること

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つまり、連帯チームで全員の意見とアイデアを持って、人々や社会がどのようなインサイト(潜在的な望みや課題など)を抱えていて、それらに対して自分たちのビジネスはどのような価値を提供できるのか、を考えるのです。

こうすることで、偏りのない多様な視点からWHYを検証できるようになります。そしてさらに重要なことは、部門を横断してワンチームになることで、より効率的かつ熱量のある新規ビジネス推進が可能になる、ということです。

WHYを明確化するプロセスで、連帯チームメンバー全員が新規ビジネスの根源的かつ濃密な内容に触れながら、対話と理解を重ねることになります。そのため、メンバー、一人ひとりの中でビジネスが自分ゴト化され、さらに部門をまたいだメンバー間で生まれる信頼関係が、社内のシナジー創出につながるのです。結果的に、新規ビジネスは効率と熱量を獲得し、加速するのです。

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さらにWHYを明文化・可視化することで、抽象的だった概念が具体的で手触り感のあるものになり、より活動に定着させやすいものとなります。

コアとなるWHYを明らかにしながら、ビジネスそのものをドライブできる。つまり、二重の側面から新規ビジネスに力を与えることができる。それがこのブランディング手法の最大のメリットです。

私は実際に新規ビジネスに魂が宿り、血が通う、そんな瞬間を目撃してきました。ビジネスを動かしているのは結局は「組織(チーム)」であり、さらに突き詰めれば「人」であり、その人の「想い」です。WHYとビジネスを動かす人。新規ビジネスにおいて、この二つの観点をしっかりと押さえることが、成功・躍進への第一歩なのです。

おわりに

新規ビジネスにおけるブランディングの重要性、こと「WHYを明確化(明文化・可視化)すること」とビジネスに関わる「人にフォーカスを当てること」の重要性をお伝えしてきました。ただし、これらはあくまで「最重要なファーストステップ」なのであって、その先にある戦略や戦術に定着させていくことを忘れてはいけません。

WHYというコアを持ちながら、ブレなくビジネスをデザインしていくこと、活動を行っていくことで、強いビジネス、強いブランドは醸成されていくのです。

皆さんの新規ビジネスのWHYは・・・「存在意義・理念」「提供価値」「ビジョン」は何ですか?ぜひ、一緒に考えていきましょう。


稲葉 大智(リブランドならYRK&)(事業変革)


株式会社YRK and
ブランドコンサルティングDiv.大阪
ブランドコンサルティング コンサルタント
Writer

株式会社YRK and
ブランドコンサルティングDiv.大阪
ブランドコンサルティング コンサルタント

同志社大学卒業後、アドエージェンシー、クリエイティブエージェンシーで、プロデューサー・ディレクターとして、多様なクライアントのブランディングおよびマーケティング課題解決に従事。2021年より現職。現在は、新規事業やブランドの立上げ・戦略設計支援、ブランドプロモーション支援といった、コンサルティング業務に従事している。クライアントが持つ創造力を最大化するファシリテーションと、生活者起点のビジネスデザインを強みに、事業・ブランドに伴走。クライアントとともに、ビジネスの飛躍を目指す。

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