COLUMN

コラム

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深井賢一 COLUMN

#SDGs「社長の視座」と「社員のジブンゴト化」

SDGsの「あるある相談」

SDGsに関して企業からよく受ける相談があります。なかなか取り組めない相談として、「当社もやりたいが役員の関心が薄い」。経営者からはその逆の相談として、「取り組み始めたが、勉強会などをしていても現場がなかなか自覚しない」。どの企業も、「これ、うちの会社にもある!」と思われるのではないでしょうか。この2つのよくある相談。実は1つの本質から出ている課題なのです。そのことに触れる前に、私が経験した2つの例をご紹介したいと思います。

社長の判断とは

1つは、食品メーカーです。ある役員の方からの次のような相談です。「紙製の容器をプラスチック製に変えたことで品質が上がり味もよくなった。お客様の評価も圧倒的に高まった。ただ一部のお客様から『なぜプラスチックにしたのか』とお叱りをいただいた。社長は、紙に戻す方向で検討するようにと言う。設備投資も開発時間も莫大にかかったのに、今さら・・・」もう1つは、流通小売り業。エシカル商品の催事への参画を依頼されていたフェアトトレードの会社社長が、その小売り業の社長に直接会い「消費者の意識が大きく変わっているのに、催事レベルの展開では恥ずかしいですよ。全館の取り組みにするべきではないですか」と迫ったところ、社長はその場で「役員への5時間の研修、バイヤーへは2時間研修など」と決断、指示したというものです。この2つの事例に本質があるのです。

50年・100年先を考える

食品メーカーの社長の「紙に戻す」判断。この判断は経営者にしかできません。品質を高めるために研究開発し、顧客に高い評価を得るまでの現場の苦労を考えると、「苦労が水の泡だ」「紙に戻したらまた昔の品質に戻りますよ」という反発は容易に想像できるからです。しかし、100年先の会社のあり方を考えた時、社会と環境がよりよく存続していることが最低限必要なわけで、今のプラスチックのごみ問題を考えれば、プラスチック容器のまま商品を出し続けるという選択はなくなるのです。苦渋の決断だからこそ経営者の判断なのです。そうと決まれば、紙でプラスチックと同じ品質を出すことを考えること。そこでSDGs17番目のゴール「パートナーシップ」が活きます。つまり実現できる技術を持ったパートナーを探すのです。それが「ソーシャルイノベーション」です。この会社の社長は素晴らしい決断をされました。この決断を全社員で実現させるべきだとお話ししました。

また流通企業の社長のその場での決断は、「役員に5時間、バイヤーに2時間の研修」でした。現場よりも役員に時間をかけた研修を指示した判断。これも社長にしかできません。私はバブル世代の前と後とで大きな価値観の断層があると考えています。40代前半から下の世代と上の世代では、「大きな価値断層」があり、ソーシャルマインドも若い人のほうが強く持っています。だから、役員クラス(つまりバブルから前の世代)の考え方を変えるための研修に長い時間をとり、若い社員が変えていこうとする力を否定したり、じゃましたりがないようにすることが大事なのです。「催事企画を全館展開に変えるべきだ」という提案に、「であれば、役員教育から入ろう」という社長判断は、すばらしいと思います。

ESG経営とは

未来志向とは

SDGsへの取り組みは、50年100年200年後の会社を想像する・考えるということから始まるのです。今年の新入社員が定年を迎えるのは、もしかしたら80歳かもしれません。そう考えると経営者は、少なくとも今から60年後の社会と会社を想像するはずです。10年先のライフスタイルやテクノロジーを予想するは難しいですが、10年後の世界・日本の自然・資源・人口がどうなっているかは、国連や日本政府からデータで予測されています。そういうデータを見る限り、未来の世界も日本も明るいものではありません。そんな未来にしないために、私たちの会社は何ができるか、どう変わらないといけないかを社員みんなで考え議論するのです。この議論は未来志向の前向きな議論です。社員一人ひとりが、会社のあり方を考え、自分がやっている今の仕事について考えることになります。だからジブンゴト化につながります。なによりもワクワクする議論になります。何のためにどうやって社会やお客様に価値ある商品やサービスを提供するのかを考える場になります。これを続ければ、会社は変わります。仮に商品やサービスが同じでも、社員の姿勢が変わるため売り方や伝え方が大きく変わります。そのことが数字に現れるのです。これがESG経営(※)であり、結果としてSDGsにつながります。SDGsの本質とは、50年・100年先の会社と社会のあり方を考えることだと言えます。

SDGsで仕事の原点に返る

冒頭の、なかなかSDGsに取り組めない会社の「あるある相談」に戻ります。「当社もやりたいが役員の関心が薄い」という相談の答えは、SDGsに取り組みたいと思ったら、まず経営者・社長に相談してみることです。社長は50年先・100年先の視座を持っている場合が多いからです。「私はこの会社を50年・100年続く会社にしたい。だから社会や生活者にとってどんな会社であるべきか、どんな商品を提供すべきかを、社員全員で考えたい」と言われて、「おまえは何を言ってるんだ!」と怒る社長はまずいないでしょう。もし言われたら、その会社は辞めたほうがいいかもしれません。「SDGsに取り組み始めたが、勉強会などをしていても現場がなかなか動かない」という経営者の相談の答えは、「SDGsは教えられたり指示されてやるものではなく、自分たちの社会と会社の未来を考える場をつくること」だということです。そのことで自然とジブンゴト化されていきます。そして、社員のみなさんが、「自分は何のために仕事をしているのか」という原点に返るはずです。その瞬間、縦割りやセクショナリズムがなくなるのです。企業にとってのSDGsとは、自分の会社の50年・100年先を、社会のあり方とともに考えることなのです。

※ESG経営とは、定量的な財務諸表と定性的なESGの両面を重視した経営のこと。ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの頭文字をとったもの。

株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi

株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長
1989年 株式会社 YRK and入社。マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーション、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。
現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入するためコンサルタントとして活躍。