#選択肢が多すぎる


選ぶのがおっくうな時代

スーパーなどで、ものを選ぶのが大変だな、と思うことが増えてきたような気がします(歳かな?)。一つは、商品がまとっている記号性が、重たく煩わしく感じることが増えている気がすること(職業病?)。もう一つは、物理的に選択肢がたくさんありすぎて、選ぶこと自体がおっくうになるということ。結局は両方とも、商品に多くの伝えたいことを詰めすぎて、それがマイナスに作用している気がします。今回は、後者の、物理的に多くの商品がありすぎて、選ぶこと自体がおっくうになるお話。

行動経済学の、『決定回避の法則』という言葉を聞いたことがあるのではないかと思います。人は、選択肢がたくさんありすぎると、決定そのものを回避したくなる、というもの。コロンビア大学の、ジャムのテストは有名ですね。6種のジャムを店頭に並べた時の、購入率が30%。24種のジャムを店頭に並べた時の購入率が3%。人は、多すぎると何を選んでいいかわからなくなり、購入自体をやめてしまう、という実験。ことはそんなに単純じゃないけれども、自分ごととして、一消費者として、売場で迷って、購入をやめたという経験はあるのではないでしょうか。

選ばれないだけならまだいいですが、積極的に嫌いになることもあるようです。自分にぴったりの商品を選ぶということが、商品数や情報がありすぎるとストレスになるとのこと。・・・なんでこんなに商品点数があるのだろうか?どれがおいしいの?なんでこんなに機能がついているの?どれを使えばいいかよくわからないな?・・・・なんか、ちょっと・・・。もういいや、このブランド親切じゃないな・・・、好きじゃないな・・・。そんなことになっているのではないでしょうか?

種類がたくさんあると、お金もかかる

売上と、利益どちらが大事か?コンディションで異なると思いますが、昨今はSKU(=Stock Keeping Unit、受発注、在庫管理の最小単位)の数で売場を維持し、マスコミュニケーションを仕掛けて売上を確保しても、利益が出にくい構造になっていないでしょうか。SKUが多いということは、開発コスト、原材料の安定的確保コスト、製造コスト、品質管理コスト、在庫管理コストがかかります。それらに合わせて人件費の高騰、輸送費の高騰などが追い打ちをかけます。

お客様が商品を選んでくれない、ややもすると嫌いになられるかもしれない、それでいて高コスト体質になりがち、なのに、SKUがドーンとある売場がいまだにあります。どうしてなのでしょうか?昭和の成功体験がそうさせるのでしょうか?たくさんあるほうが、お客様視点で喜ばれるから?競合に販売面を取られたくないから?開発の力が強くて、プロダクトアウトで新商品がどんどん生み出されるから?ある商品を削ると、それを支持してくれていたお客様が減るから?

正式には『現状維持法則』というと思います。『決定回避の法則』とセットで語られることが多いと思いますが、選択肢が多すぎると、あーなんだかたくさんあって選べないから、いつものやつにしておくか、と決定を回避することで、いつもの顧客を逃がさない現状維持の方法です。しかし、それは、顧客維持にはなるかもしれませんが、新しいお客様との接点が少なくなります。なんだかんだで、マーケットが微減しつつ、顧客も歳をとっていきます。

多様性のイメージ

ECにはレコメンドがある、店頭は?

ECには、物理的な制約が少ないため、多くの商品が閲覧できますが、あまり商品選びにストレスがかかることがないように思います。それは、絞り込みと、レコメンド機能があるからだと思います。あなたにはこれがお勧めですよ。前にもこれを見ていましたよ。これを見ていた人は、これを買っていますよ。おお、なるほどーとなる。一方で、スーパーや、量販店は、従業員を減らす方向にあり、お客様は、ますます、商品を選択するよりどころを失ってしまうのではないでしょうか。

なんとなく選ばれるために

売上は増えているのに、利益が減っている。もしくは、マーケットが小さくなってきている。そんな場合は、いったん立ち止まって、商品点数の最適化を考えてみる機会なのかもしれません。これから先、長期間関係を構築したいターゲットを設定し、その人が商品選定の際に何を大切にしているのか。それを考えなおす。おすすめポイントを絞り込み、磨きなおす。その際に、他社に追随できないポイントを磨きなおせればベスト。そして、その情報を伝える順番も設計する。そうして、そのうえで、そのターゲットがなんとなく『自分はこれがスキ』と選択できる状態を提供する。あまりに作為的だと、冒頭の、記号性が重たくなるところに戻ってしまうと思います。

昔、どなたかのコラムで、『町の喫茶店が、焼うどんを出し始めると、店がつぶれる』というのを読んだことを思いだしました。できることなら、焼うどんを出す方向ではなく、コーヒーに磨きをかける方向が生き残る方法なのかもしれません。

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株式会社 YRK and
ブランドクリエイティブユニット(BCU)
エグゼクティブプロデューサー
山口 博之 Yamaguchi Hiroyuki
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株式会社 YRK and
ブランドクリエイティブユニット(BCU)
エグゼクティブプロデューサー
山口 博之 Yamaguchi Hiroyuki

従来のプロジェクトの進め方そのものを変える「コンパクトコミュニケーション®」を開発。同時にリブランディングコンサルティング事業を立ち上げる。現在は、ブランディングに特化したプロデューサーとして活動し、ブランディングプロジェクトのデザインからブランド構築まで関わる。