#SDGsが生み出す強い営業力


持続可能でなければ事業継続はない!? 

日々の業務におけるSDGsの捉え方

SDGsは、規模の大小や上場非上場を問わず、企業として取り組まなければいけない重要な要件になりました。しかし、国連で採択されたものだというイメージもあり、日々の業務に結びつけにくく、社員一人一人が自分の仕事に置き換えるのが難しいという声を耳にします。

そもそも持続可能な開発目標(SDGs)を、なぜ社員一人一人が自分の仕事に置き換えなければいけないのか、この認識差が原因です。

SDGsにおける企業の認識差

経営者にとってのSDGs

経営者、特にトップは、常に強い危機感を持っています。ゴーイングコンサーン(事業の継続性)への大きな責任です。それは前社長から経営を引き継ぎ、さらに会社を経営的に充実させ後継社長へ引き継ぐ責任で、歴史のある会社ほどその責任を重く感じるはずです。そして経営トップの強い危機感は、自社が利益を出し続けるゴーイングコンサーンだけでは、会社の存続が難しいと気づいているからでもあります。

難しくしているのは、地球環境、水産・農産・畜産といった天然・自然資源、エネルギー、資材や素材の調達ルートや、廃棄や再資源化など、会社を取り巻く様々な問題です。こうした問題を最小化し解決に近づけていくこと、つまりサステナビリティ(持続可能性)が担保されない限り、会社のゴーイングコンサーンもないからです。特に上場企業は、投資家に対するESG(環境・社会・企業統治への取り組み)への説明責任が必要になっていますし、非上場企業であっても、サステナビリティへの取り組みが取引条件になっていたり、若い人たちが入社する会社を選ぶ時の重要な選択条件になっていたり、ということがあるからです。

経営者にとってのSDGs

時間がかかる社員の意識醸成

コロナ禍でのSDGsに対する社員の本音

VUCAとも言われる予測不能な時代に、新型コロナウイルスが追い打ちをかけ、経営トップは恐怖にも近い危機感を持っています。短期的な営業数字を追求する一方でSDGsの重要性も説く経営者。社員から見れば、地球環境や世界の社会問題も大事なのはわかるが、「それをうちの会社がやることなのか?」と感じてしまうのです。

社内研修を開催したり、他社の事例を収集して社内で共有したりと、工夫して様々な取り組みをしている企業は多いと思います。だからといって、毎日の仕事に結びつけるのは、なかなか大変なことです。研修による意識改革は時間がかかります。それこそ社員数が多い会社や、小売りやサービス業のように店舗が全国・各地に点在していればなおさらです。そんな社内の雰囲気にいら立ちを隠せない経営トップは多いはずです。ところが、短期間の集中的な仕掛けで、社員の意識も行動も変えてしまったという、魔法のような事例があります。

VUCA時代、新型コロナウイルスによる経営トップの危機感

「やらされる」から「やりたい」へ

大阪に本社を置く繊維ファッションの総合商社A社の例です。社長は、経営理念にもある「社会に貢献しよう」という一文と、SDGsの親和性を強く感じていました。そこで管理職向けには外部講師を招いてのSDGsセミナーを開催し、CSRにも力を入れてきました。ところが、社会貢献・SDGs・CSRを社長が強調しても、営業やデザインの最前線では、ピンと来ていない印象でした。

そこで社長は、思い切って数ヶ月後の展示商談会を、SDGs一色で開催しようという決断をします。A社独自のSDGsテーマを決め、これまでCSRとして行ってきた活動を、既存事業と結びつけてSDGsの活動として紹介するというものです。それぞれの自社商品は、SDGs17のゴールに沿った紹介に変えました。

全社的に研修やワークショップを行い、知識を共有し、意見を交わし、意識を醸成していくという方法ではなく、自社のCSR活動や、これまで商品に内包されて目立たなかった社会・環境性の一面を、引っ張り出すようにしてアピールする方法を、社長は選んだのです。この方法は、社内でも賛否分かれることがあります。「今までやっていなかったSDGsを、あたかもやっていたかのように見せるのか?」という思いを持つ社員もいるからです。しかしこの方法は、こんな声が上がることは想定内として進めていくのです。

「やらされる」から「やりたい」へ

少しずつ変わる社員のSDGsに対する変化

展示商談会は、まずは本社のある大阪で開催されましたが。A社社長は、大阪での展示商談会直後に、その効果を実感することになります。会場は、入口から一つ一つの商品までSDGsに関連した説明が付き、社長をはじめ役員、そして営業部員も、17色に彩られた大きなパネルの前で得意先経営層や担当者を出迎えました。展示商談会終了後、2日間にわたって得意先に会場を案内し商品の説明を行った営業部員から、「2週間後の東京での展示商談会では、SDGsのバッジをつけたい」という声が上がりました。

これまでSDGsの重要性を訴えてきたものの、営業部を中心にどこかピンと来ていない雰囲気を感じてきただけに、社長にとっては「してやったり」の反応でした。2週間後、東京での展示商談会は、会場で得意先をお迎えする社員全員がSDGsのバッジをつけていました。「会社に言われてSDGsバッジをつけてお客様を迎える」のと、「自分たちでSDGsバッジを要望してお客様を迎える」のでは、行動は同じですが、意識が全く違います。意識は高い方が成果は出ます。相手に気持ちが届くからです。

少しずつ変わる社員のSDGsに対する変化

行動が意識を変える

第三者の評価が与える自社社員への影響

このA社の事例は、魔法のような奇跡と偶然で起こったわけではなく、最初から計画的に準備をして実施した結果です。社内で知識と意識を醸成するには時間がかかります。しかも研修では影響を受けたとしても、仕事に戻るといつも通りの意識に戻ってしまうというのも、よくあることです。このA社が仕掛けた取り組みは、得意先にSDGsの取り組みを、自社の商品やサービスに結び付けてアピールしたことで、「得意先の反応・態度が変わった」ことが、「社員の意識と行動を変えた」のです。ちょっと乱暴な言い方ですが、「社長の言葉」よりも「得意先(お客様)の反応」の方が社内に大きな影響力を及ぼすこともあるのです。

この展示会プレゼンによる社員意識醸成方法は、他にも例があります。別のメーカーB社でも、商品1つ1つにSDGsのゴールをつけて商品をアピールし、B社社長は会社として掲げるSDGsの目標の前で、得意先企業を迎えました。その時に展示会に訪れた小売のバイヤーは、B社のSDGs展示に驚き賞賛しました。「あんたの会社、すごいことやっているな」「いいことやっているじゃないか。知らなかった」といった具合です。その反応に、「うちの会社がSDGsをやっていることを、社員の自分がわかっていない!」「自分たちも勉強しないとお客さんに失礼だ!」という営業の声が上がりました。実はこの声をきっかけに、B社はSDGsの社内プロジェクトを発足させました。こうしてスタートしたプロジェクトは、メンバーの主体性によって取り組みが加速しています。社員の行動を変えさせるために、意識を変えさせようとする企業は多くありますが、「行動を変えれば、意識は変わるのです」。「やらされる」のではなく「やりたい」「やろう」をどうつくるかが重要です。

第三者の評価が与える自社社員への影響

モノの取引から共創の取り組みへ

ニチバンの事例から見るSDGsの取り組み

ニチバンの「セロテープ®」が成果を上げたSDGsの取り組みを紹介します。「セロテープ®」の主原料は植物です。透明テープの元祖「セロテープ®」が、バイオマスマークを取得していることは、意外と知られていません。そのことが評価され、2020年のソーシャルプロダクツアワード 年度テーマ(脱プラスチック)部門で大賞を受賞しました。透明テープの代名詞とも言える「セロテープ®」ですが、プラスチックが主原料のOPPテープが安さを売りに台頭し、透明テープを最も使用する流通小売業界では、コスト面でOPPテープに分がありました。透明テープは、テープ台に設置された状態では、植物由来の「セロテープⓇ」なのかプラスチック「OPPテープ」なのか、素人には見分けがつきません。「見分けがつかないなら安い方がいい」となるわけです。商談で、「セロテープ®」の特徴を説明しようにも、コストの話に終始してしまうということもあったそうで、営業にとってはモチベーションが上がらない、よくある話です。

ニチバンの事例から見るSDGsの取り組み

そんな状況を一変させたのはSDGsでした。「セロテープ®」が植物由来だということは、プラスチック製のOPPテープに比べて焼却時の二酸化炭素排出量が圧倒的に少なく、プラスチックごみ問題もありません。ニチバンは、全国の小売各店が、OPPテープから「セロテープ®」に変えることを「Small Action For Future」と名付け、30ページに及ぶスライドで提案書にしました。さらに、「セロテープ®」を使用する流通企業を、「Small Action For Future」に取り組む企業として、「セロテープ®」の新聞広告に社名ロゴを入れる提案もしました。この提案は流通企業53社と5自治体に受け入れられ、9月26日の日経MJにその広告が掲載され話題になりました(写真)。この広告は、日経MJ広告賞優秀賞も受賞しました。「こんなにうちの営業が盛り上がったのを久しぶりに見た」と小林上席執行役員テープ事業本部長が述懐されるほどに、営業のみなさんの「セロテープ®」へのモチベーションが上がったのです。この取り組みで、「セロテープ®」という「モノの売り込み」が「セロテープ®」を使うことによる「共感・参加・取り組み」になったということです。これが共創なのです。

圧倒的な「感情差」で同質化を乗り越えよう

SDGsの取り組みは、どの企業もやりはじめます。そうなると、やるべきこと、やっていることはだいたいどの企業も同じようなことになります。二酸化炭素の排出を抑える、脱プラスチック、フェアトレードなど、同質化するのです。
そこで重要なことは、違いを何にするかです。それは、わが社が取り組む理由、わが社ならではの独自の取り組みを、当事者である社員が本気で熱く語れるかどうかです。モノやサービスを「性能差・機能差・効能差」で選んでもらうのではなく、「感動した」「共感した」「参加したい」「応援したい」という「感情差」で選んでもらう。「感情差」はこれからの競争に欠かせないものなのです。

圧倒的な「感情差」で同質化を乗り越えよう
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一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会
事務局長
株式会社 YRK and
CMO / 取締役 兼 TOKYO代表
深井 賢一
Writer

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会
事務局長
株式会社 YRK and
CMO / 取締役 兼 TOKYO代表
深井 賢一

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長。1989年 株式会社 YRK and入社。マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーション、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入するためコンサルタントとして活躍。

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