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「フライパンはなぜ丸いのか?」
こんな疑問を持ったことのある方はいらっしゃるでしょうか?

諸説ありますが、一般的にフライパンは丸型の方が熱伝導が均一になるということから、丸型が主流になったと言われています。

しかし、近年では素材も進化し熱伝導率の優れた製品も多く、さらに家族構成やライフスタイルの変化で、キッチンツールのニーズも多様化していて、確かに「丸であること」「規格サイズ感」ってどこまで必然性があるのか?という問いが湧いてきます。

今回のコラムでは、「フライパンはなぜ丸いのか?」そんな疑問からキッチンツールを再定義した「燕三条キッチン研究所」がおこなったブランディング事例を独自の解釈を交えながら紐解いて参ります。

Index

  1. 危機感からスタートしたブランディング
  2. 明快なブランドコンセプトの確立
  3. ブランドとユーザーとの距離感
  4. この事例から見えてくるヒント

危機感からスタートしたブランディング

ものづくりの町・金物の町で有名な燕三条に拠点を構える創業70年有余年の「杉山金属」は、金属プレス加工技術を軸にOEMや自社オリジナル商品を製造しています。しかし、プライドを持って提供した製品が、商社や卸を経て、希望価格よりも低い価格で店頭やECサイトで売られていたり、流通の複雑化により、どの製品が幾らで売られているのかが、全くは把握できない状況が続いていました。そのような「自社商品のブランド価値」が下がっている状況に危機感を抱いた同社が、同郷新潟出身のアートディレクターである石川竜太氏に声を掛けたことから、今回のブランディングプロジェクトが始まります。

明快なブランドコンセプトの確立

冒頭でも出てきた「フライパンはなぜ丸いのか?」という疑問をきっかけに、現代の価値観やライフスタイルの観点をベースに、これまで「常識と思っていたこと」を根底から見直すところから始まりました。

グラフィックデザイン・プロダクトデザイン・コピーライターなど様々な分野のメンバーを含め、8名というコンパクトなチームで定例ミーティングを重ね、「素材も形もさまざまあるキッチンツール。でもそのデザインは、あなたの暮らしに本当に合っていますか?」という問題提起を掲げます。

そして、一般的に認知のある「5W1H」の「Where=キッチン」を除いた

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4W1Hというブランドコンセプトを定義し、キッチンツールを再編集するブランド「燕三条キッチン研究所」が生まれました。

この明確な「当たり前を見直す」というブランドの存在意義と、商品開発においてのシンプルながらも明快な判断基準(4W1H)の策定は、日々クリエイティブを生業としている私の視点から見ても、「シンプル」で「クリア」で「ボールド」という理想的なブランド戦略だなと感じます。

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ブランドとユーザーとの距離感

また、商品開発において「4W1H」の5項目を穴埋めしていくという確固たるスキームがあるからこそ、「どう使いやすいか?」「どんな時に便利か?」といった徹底的なユーザー視点を追求することが可能となっています。また、販路を燕三条キッチン研究所のECサイトと小売店の実店舗に絞ることで、ユーザーの声が届きやすい距離感を保っており、徹底して4W1Hを追求できる環境を整えています。

これらの成果が現れているものとして、看板製品となっているのが「ホットサンドソロ」。ユーザーのツイートがきっかけで、2日間で約10万件の「いいね」がつき、即完売になったそうです。さらに現在は、実店舗が全国に116店まで拡大中で、ますますの事業成長が見込まれています。

この事例から見えてくるヒント

今回、この成功事例を考察して思う事としては、

・コンパクトなプロジェクトチームによる役割の明確化とクリエイティブ思考
・サードパーティ(外部)のメンバーを入れることでの業界や市場の常識にとらわれない着眼点
・ブランドの本質的価値から導き出された明快な判断基準
・独自の販路構築によるブランドとユーザーの理想的な距離感の醸成

などが成功のポイントになるかと思います。

どの業界でも「今までそうしてきたから…」と疑問を抱かない思考であったり、理由を深く理解しないまま事業を推進しているケースは意外に多いと思います。

関連コラム:一見何の関係もない、「ローストビーフ」と、「イノベーション」の関係性。
https://www.yrk.co.jp/media/column_210802/

しかし、現在は言うまでもなく、劇的な変化の連続による予測不可能な時代に突入していて、企業は今までの戦略や手段のままでは1年も経たないうちに(少し極端ですが)、時代にマッチしなくなるという事態に直面するケースもあります。

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冒頭の「フライパンはなぜ丸いのか?」ならぬ、「その当たり前は本当にそれが最善なのか?」という「思考の転換」こそが大事なのではないかと改めて感じます。一人ひとりが日々の生活、日々の仕事の中のちょっとした「思考の転換」からでも始めてみる。そしてそれを習慣化や仕組化をしていくことで、事業や企業、そして社会に広がるポジティブで持続可能な未来を創出していくことができるのではないかと考えます。

writer
山田 哲也