#SDGsで「コストを付加価値に」変える


コスト上昇が続く時代

一昔前と比べて会社の収益性が悪くなったという話を、経営者からよくお聞きします。自然災害で農作物が不作だったり、海水の温暖化で魚が獲れなくなったり、中東の政情不安から燃料代が上がったり、そういうことが重なってコストが上がっているというのです。ある経営層から「今期は利益を出すのが厳しいので、進めていたSDGsプロジェクトを中断させることにした」と連絡を受けました。これ実は、サスティナブルプロジェクトあるある話です。本業が儲かってこそのサスティナブル(SDGs)だということなのです。

企業を悩ませるコストアップ。実はほとんどが社会問題や環境問題が原因です。先に挙げた例では、自然災害や海水の温暖化は環境問題。中東の政情不安は社会問題です。人手不足とそれに伴う人件費高騰も、少子高齢化や東京一極集中という社会問題が原因だと言えます。ですからコストアップによる収益の悪化は、この社会問題と環境問題を解決しない限り改善しないという結論になるのです

ところが「本業」と「サスティナブル」「SDGs」は別のものと考えていると、本業が儲かってこそのサスティナブル」「SDGs」となるのでしょう。私はソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP)の立場から、本業で社会問題や環境問題を解決していくことを提案してきました。ですからこのコストアップ要因こそ、自社の商品にソーシャルプロダクツとして新しい価値を、付加するチャンスだと思っています。

環境問題

モノの価値にソーシャル価値を付加する

ソーシャルプロダクツとは、製品やサービスに、社会問題や環境問題に対して何らかの働きかけを行う価値を、付加している商品のことです。

ソーシャルプロダクツの例に、「地球も自分も美しくなるエシカルウォッチ」というコンセプトの「シチズンL」(シチズン時計株式会社)という女性向け腕時計があります。「シチズンL」は、5つの「エシカルコミットメント」を表明しており、CO2排出量の公開や取扱説明書のスリム化、サスティナブルパッケージなどと共に、DRCコンフリクトフリーが挙げられています。これは「時計を作る過程で誰かを不幸にしてはいけない」ということから、時計に使われている紛争鉱物(コンゴ共和国とその周辺国)が、違法に採掘されたものでないことを確認している、というものです。

もう一つ代表的なソーシャルプロダクツとして、サラヤの「ハッピーエレファント」(サラヤ株式会社)という洗濯洗剤があります。この洗剤は、持続可能なパーム油を使用していることを認証するRSPOマークが付き、パーム油のもとであるヤシノミが採れるボルネオ島の熱帯雨林の保全に、売上の1%を寄付する仕組みがあり、高い生分解性を持つ植物性洗浄成分を使用しているため、サプライチェーンすべてにわたってソーシャル性の高い商品に仕上がっているのです。

どちらの商品も、モノとしての価値に、社会問題や環境問題を解決するための仕掛けが付加価値になっていることがポイントです。

値上げの理由に想いを馳せる

値上げで怖いのは、今までのお客様が離れてしまうのではないかということです。昨日まで買っていたものの値段が上がったら、安いものへと移ってしまうかもしれない。そういうお客様もいるかもしれません。一方で、値上げした理由を丁寧に説明していないから離れてしまったお客様もいるのではないでしょうか。もう一言を付け加えれば、これは値上げでなく、会社としてブランドとして真摯に取り組んできた結果であると、お客様に説明するということです。

例えば、食品メーカーであれば、原材料となる農作物をつくる農家を支援している会社はいくつもあります。アフリカなど途上国から原材料を輸入している企業や商品であれば、農場や牧場の経営支援までしている例はいくつもあります。水産物を加工する食品メーカーでも同じ例はありますし、日用品や化学品メーカーなど他の業種でも多くの企業が社会や環境の課題に取り組んでいます。

私はそうした企業の取り組みが、商品やブランドの文脈の中でもっと伝えられるべきだと思っています。
例えば企業がCSRで取り組んでいることも、商品やサービスの価値を伝える中で言うべきなのです。それは、手に取ってくださったお客様に、その商品がどこからどんな人たちの想いを乗せて、今自分の手にあるのかということに、想いを馳せてもらうためです。つまり想像してもらうためなのです。

売場イメージ

「選ぶ動機」「買う動機」が変わる

商品やサービスは、生活者に選んでもらわなければなりません。選んでもらうための重要なポイントは、「他との明確な違い」です。この、「選ばれる違い」が大きく変わってきたのです。

例えば、今までは、「スペック」「性能」「効能」「効果」「イメージ」「有名」「価格」といった、モノそのものの違いで選ばれました。しかし、もはやモノそのもので違いを出すことが限界に来ています。
言い換えれば、生活者がその違いを実感できなくなっているのです。だからこそ「性能」や「スペック」によるコストアップに伴う値上げは、生活者にとっては実感できない以上受け入れられないということになるのです。

だから商品やサービスは、単にスペックやイメージで選んでもらうのではなく、それが原材料から出来上がって「私」の手元に来るまでの、はるか長い道程や工程に想いを馳せてもらって、選んでもらうのです。選んだ理由はモノの良さに加えて、その工程や道程に関わる想いや苦労、手間への「共感」「応援」「投票」「感動」という感情が動機になっていることを意味しています。この4つの動機については、あらためて別のコラムでお話しします。

「やっていることは同質化」、違いは「なぜ」に出る

生活者からこうした新しい動機を引き出し、選んでもらうために、新しい伝え方が必要になるということです。例えば腕時計であれば、今までは「スペック」「デザイン・フォルム」「タレントによるイメージ」で選んでもらえました。つまりこの商品は「何か」=「WHAT」を伝えれば選んでもらえる可能性があったのです。

しかし、ソーシャルプロダクツは違います。想いを馳せてもらわないといけないからです。

例えば、「フェアトレード商品である」「農家を支援している」「原料を採っている国の村に売上の一部で学校へ寄付している」という情報だけでは、生活者は想いを馳せることができません。
むしろこういうことは、どの企業でもできることです。そして今後、いろいろな企業がやりはじめます。「やっていることは同質化」していきます。

商品やサービスを選んでもらうには、違いが大事だと言いました。
「やっていること」は同じでも「はっきりした違い」を見せることです。
それは

「WHY」なぜ

「WHO」誰がどんな想いで

「HOW」どのように(苦労)して

「VISION」なにを目指して

つくったのかという4つのポイントにあります。

ストーリーがなければ伝わらない

シチズンLであれば、開発した前田花菜さんがシチズンLについてAPSPのHPで次のように語っています。「女性は内面の美がその人を輝かせます。そこで『時計の内面の美とは?』と考えました。育児休暇が終わって復帰した直後。主役が子供になり、内面の美しい人に育ってほしいという思いがあり、未来が気になりだしました」。つまり「娘さんが生まれたのをきっかけに、時計の内面の美を考えた」ことが、誰も不幸にしないエシカルな、シチズンLが生まれたきっかけなのです。

ハッピーエレファントの場合、APSPの取材に次のように答えています。「あるテレビ番組から、御社のヤシノミ洗剤の材料アブラヤシの農園開発によって、ボルネオ島の環境破壊が進み、ゾウが生息地を追われ死んでいる。番組に出演してコメントを欲しい、と依頼されました。他社が断る中でうちだけが出演し、世間の批判の矢面に立たされたことが、『幸せな象』と名付けた洗濯洗剤『ハッピーエレファント』誕生のきっかけなのです」。人は「やっている」ことよりも、「なぜ」始めたのかという「ストーリー」に感動し、共感し、応援したいという気持ちになるのです。

つまりストーリーさえあれば、それで伝わるものでありませんが、ストーリーがない商品は話にならないということです。そして、わかっていることは、15秒のCMや新聞広告では、ストーリーを伝えにくいということです。

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株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi
Writer

株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長
1989年 株式会社 YRK and入社。マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーション、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。
現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入するためコンサルタントとして活躍。