講談社ブランディングコラム_前編(リブランディングマガジン)(リブランドならYRK&)


この記事を読んでいる方は、スマホでさくっと今日から使える知識をインプット──という人が多いでしょうか。あなたが最後に紙の本を買ったのは、いつですか? ずいぶん前から電子書籍派、という方もいらっしゃるかもしれません。

そんなさなか、変革の時を迎えているのが出版社です。出版社は、これまで書籍・雑誌といった紙のメディアを発信源として、強力なコンテンツを世の中に発信し続けてきました。しかし、人気作品の映像化や電子書籍・Webメディアの普及に伴い、今やコンテンツ産業そのものを担う存在になっています。

そうした中で、海外でのコンテンツビジネスを視野に入れ、いち早く「グローバル展開」を戦略として掲げた出版社があります。2021年にブランディングを行った『講談社』です。ブランディング に際し、“Inspire Impossible Stories”という新たなブランドパーパスを打ち出し、新たにロゴマークも制定した『講談社』。プロジェクトの背景には、ニューヨークのクリエイター集団・グレーテル社の存在がありました。

編集者というクリエイターが集う日本の老舗企業『講談社』が、外部、しかも海外のクリエイターとどのようにしてブランディングを進めていったのか。その過程を紐解きながら、プロジェクトに“アツく”邁進していくヒントを紐解きます。

Index

前編

  1. きっかけは、コンテンツ産業の世界的な拡大
  2. 『講談社』の「顔と名刺」を世界に伝える
  3. プロジェクトを成功に導く「4つのポイント」
  4. 後編

  5. 『講談社』の現在と、私たちの日常へのヒント

きっかけは、コンテンツ産業の世界的な拡大

『講談社』では、約10年単位で新たな目標を設定し、経営方針を固めてきました。2019年に新たに設定されたのが「グローバル展開の加速」という目標です。

ブランディングコラム_講談社_image-01_PC(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

ブランディングコラム_講談社_image01_SP(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

コンテンツ産業は世界規模で拡大を続け、2023年には140兆円にもなると見込まれています。その一方で、人口減少を続ける日本。相対的に、海外の需要がさらに拡大していくことは明らかです。また、通信技術の発展に伴い、国境を越えてコンテンツに触れる機会がどんどん増えています。そうした時代の中でグローバル展開を加速させるために課題となったのが、“いかに『講談社』として海外にコンテンツを発信していくのか”という点でした。

『講談社』の「顔と名刺」を世界に伝える

「ノルウェイの森」や「進撃の巨人」など、作品のタイトルこそ世界に知られていますが、それらの作品が『講談社』という出版社から輩出されていることを知っている人は、ごく少数。「こんなに面白いものを作っている、『講談社』という会社が日本にはあるんだ!」ということを世界に発信していくために必要なものは何なのか。導き出された結論は「講談社としての“顔”と“名刺”をつくる」──すなわち、ブランディングが必要であるということでした。

実は、これまでオフィシャルなコーポレートロゴが決められていなかった『講談社』。企業理念として広く浸透していた「おもしろくて、ためになる」という言葉も、社内で浸透しているとはいえ、日本語であるが故に日本語話者にしか伝わらないことが課題でした。

世界に伝わる“顔=理念”と“名刺=ロゴ”で、世界中を「こんなにおもしろくてためになるコンテンツを作るなんて!」とワクワクさせる存在に。そうして、『講談社』のブランディングプロジェクトがスタートしました。

プロジェクトを“アツく”成功に導く「4つのポイント」

このブランディングプロジェクトを成功させた背景には、下記の4つのポイントがあると私は考察しており、今回はそれを一つずつ紐解いてみたいと思います。

  • ①全員のチューニングを合わせる
  • ② チューンナップのコツ
  • ③とにかく、すばやく、共創
  • ④誰かが答えを出すのではなく、共に答えを作っていくこと

①全員のチューニングを合わせる

このブランディングプロジェクトには、クリエイター集団・グレーテル社が大きく関わっています。ニューヨークを拠点に活動し、これまでネットフリックスやナショナルジオグラフィックなど、世界的な有名企業のブランディングに関わってきたチームです。

海外のクリエイティブチームとともに、日本の出版社のブランディングを考える。そうした状況の中で、最初に行われたのがクリエイターによる社員への徹底的なヒアリングでした。延べ100人にのぼる社員に対して行われたといいます。

なぜ、そうした時間が設けられたのか。そこには、『講談社』と、日本の出版業界の特殊性がありました。

ブランディングコラム_講談社_image02(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

『講談社』では、文芸書や新書、漫画や雑誌など、特定のジャンルに偏らない幅広い本を作っています。こういった「総合出版社」というスタイルは、実は海外では珍しいもの。また、時に著者のパートナーとなって原稿づくりに関わるという、文字通りの「編集」という枠を超越して物語づくりの本質に関わる編集者の存在も、日本独自のものでした。『講談社』という企業への理解を深めるためには、一部の社員に話を聴くのではなく、会社全体、ひいては日本の出版業界そのものを理解する必要があったのです。

こうした会社・業界全体の「空気」を知るには、直接言葉を聴くことが一番でした。度重なるヒアリングは、やがて単なる「話し手」「聞き手」といった関係性を超えていきます。そしてそのことが、グレーテル社のメンバーも、『講談社』社員のような気持ちで一緒に『講談社』の未来を考えることができるきっかけになっていったのです。

②チューンナップのコツ

同じ視座で未来を語ること。そのために、謙虚に、真摯にインプットを重ねること。そうして、外部・内部メンバー関係なく、プロジェクトに向き合うためのチューニングを合わせていくことが、お互いの関係性づくりで何よりも大切なことだと思います。

チューニングの合わせ方は色々あります。ダイレクトなヒアリングだけが全てではありません。私は、地方の中小企業の仕事をする時、集合時間より早めに現地に行き、街中を歩くようにしていました。どんなお店があるのか、どんなファッションの人が多いのか、どんな会話をしているのか。そういった「街の温度」を知ることが、その街の人に愛されるブランドづくりのヒントになると思ったからです。

それは都市に限ったことではなく、組織・企業に対しても同じことが言えると思います。リスペクトの気持ちを持ち、フラットな眼差しで相手を知ろうすること。それが、他のメンバーと一体となってプロジェクトを推し進めていくための第一歩になるはずです

後編はこちら