温故創新の事業承継に必要な「ブランディング」とは_imageTOP(リブランドならYRK&)(事業承継)


前回の事業承継コラムでは、我々YRK andが事業承継を経て、創業123年目にして社名を「ヤラカス舘」から「YRK and」に変更し、経営理念・企業スローガンの変更をおこない、「事業コンサルティングファーム」へと事業変革を成したプロセスを簡単にお話しました。
今回のコラムは、事業承継を成功させている国内企業事例を交えつつ、事業承継を経て社内外に新ビジョンを浸透させてゆくポイントを紐解いて参ります。

Index

  1. 「後継者不在」は社会的課題
  2. ピンチをチャンスに置き換える逆転の発想
  3. 国内の事業承継成功例
  4. 事業承継を成功させる5つのポイント

「後継者不在」は社会的課題

国内における、事業承継(代替わり)の危機的状況は変わりません。70歳を超える経営者の内、約半数が後継者が決まっておらず、60歳以上の経営者の半数が廃業を予定しています。2020年のデータでは、約5万軒が休廃業、もしくは解散しています。中小企業においては、M&Aがこの3〜4年で倍増しており、後継者不在で事業承継するより、他社や他業界に売却してしまう傾向も顕著になってきています。

温故創新の事業承継に必要な「ブランディング」とは_image01(リブランドならYRK&)(事業承継)

「後継者難倒産」もこの数年、過去最高だった2019年と同様のペースで推移しています。原因としてはコロナ禍による業績の急変や、代表者の急な死亡等で承継が間に合わない「息切れ型」や、後継者の資質不足など、様々ですが、典型的なケースでは、先代からの意思疎通が円滑に行かず承継後に経営がいきづまり、時間や経営体力のない中小企業から廃業に傾いていくケースです。

また、事業承継の際の先代経営者との関係は、「同族承継」が40%弱で最も高いものの、最近では「非同族」である「内部昇格」や「外部招聘」が増加しています。ファミリー企業であっても「脱ファミリー化」を考える傾向が強くなってきています。

ピンチをチャンスに置き換える逆転の発想

そのような環境の中で、我々YRK andは日本企業の未来を創造する強い意思を持って、【持続可能な事業成長を支援するトータルリブランディングパートナー】として事業承継リブランディングに取り組んでいます。

我々は事業承継を単に、経営権・財務的資産・現状の競争力の源泉・無形の資産などの引き継ぎとは考えていません。同族か否かを問わず、企業トップが代わり若返る時こそ、バックキャスティングで将来を見据えた新しい企業のブランド価値を社内外のステークホルダーすべてに発信できる機会と捉えます。代替わりによる、事業承継を「事業そのものの見直し」をゴールとした最大のチャンスとして考えています。最大のチャンスとは、

  1. 新たな、企業全体のパーパス(存在意義)の設定と見直し
  2. 事業そのもののMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の設定
  3. 新規事業の創造
  4. イノベーションを起こす組織作り
  5. 自ら考え、行動する「自走社員」への教育の機会

以上のように、事業承継の機会は会社を大きく変える最大の好機と捉えています。しかし、現状では、事業承継がうまくいかず、業績が横ばい、ないしは下降気味の企業が多数あります。 大きな原因としては以下が挙げられます。

  1. 新トップの経営方針やビジョンが、「現状方針の修正型」になっており、MVV、ゴールが設定されず、明確でない。
  2. 先代のやり方や、過去の成功事例に囚われ、経営が保守的になり、事業が停滞する。
  3. 企業が自社の価値を明確に提示できていない状況が続いたため、将来ビジョンや価値を語る人材がいない。よって次世代後継者候補が教育されておらず、不在である。

企業全体の存在意義や事業のMVVを設定していくためには、マーケティング部や宣伝部、経営企画部等、一部署が先導するのではなく、企業のバリューチェーン全体の一連の流れの中でプロジェクトを進行させることがとても重要です。

温故創新の事業承継に必要な「ブランディング」とは_image02(リブランドならYRK&)(事業承継)

その中で、環境分析を行い、見えてくる企業の課題と打ち手の仮説設計をし、ぶれない判断基準をつくる。その判断基準に沿って、企業全体の価値を社会的価値になるまで徹底的に掘り起こしてゆく。このプロセスが非常に重要なのです。ここで少し、事業承継を機に事業を成長させている国内企業2社の事例を紹介いたします。

国内の事業承継成功例

温故創新の事業承継に必要な「ブランディング」とは_image03中川政七商店(リブランドならYRK&)(事業承継)

まずは、国内に51店舗を展開する生活雑貨ブランドの「中川政七商店」。創業は享保元年、300年以上事業を継続させている老舗企業です。13代目政七社長が入社した2002年当時の同社には、企業ビジョンがなかったそうです。そこで2007年に「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げてから、会社は大きく変わったようです。

業界特化型の経営再生コンサルティング業の立ち上げ、流通プラットフォーム「大日本市」の創設等、自社の製造から小売り事業にとどまらず、伝統工芸業界全体に対し大きな影響力を持つ企業に発展しています。全ては「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに則した事業拡大です。ぶれない判断基準、ビジョンがいかに大切かを物語っているのではないでしょうか。

この大きくなった事業の新たな成長実現を目指し、ブランドマネージャーであった千石あや氏が2018年に同族経営からシフトして社長に就任。14代目を任せられることになります。300年以上の歴史の中で、一族以外が継ぐのは初めてだそうです。ビジョンに共感してブランド価値を体現し続け、新たなブランドも立ち上げながら、企業の価値を社会的価値にまで掘り下げていく。会社の中で、いかに将来ビジョンと価値が語られているか伝わり、素晴らしい後継者が育つ環境があると思います。

温故創新の事業承継に必要な「ブランディング」とは_image04_平安伸銅工業(リブランドならYRK&)(事業承継)

次に紹介するのは、「突っ張り棒」が有名な家庭日用品メーカーの「平安伸銅工業」。創業は昭和27年で70年を迎えるこの企業は2015年に創業者の孫の女性社長が就任し、新社長のもと、新しいブランドの立ち上げや、組織の改革に大きく舵を切ったようです。特記すべきは「ファミリービジネスからの脱却」。以前は創業家の意向が意思決定の判断基準になってしまっており、議論の最後も「創業家がこう言っているから」と社内組織が全く機能せず、思考停止に陥ってしまっていたようです。ファミリービジネスの強みが過去のものとなり、現代には通用しなくなってしまったということです。

そこでおこなわれたのが、新ビジョンの制定と、そのビジョンを実現するためのバリューの設定です。
ビジョンは「アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ」
そしてこのビジョンを実現するために策定された新しいバリューを、「ヘイアンバリュー」と命名し、全社員に向け9つの行動規範を策定しました。

強力なトップダウン組織から、ボトムアップ型組織への変化を目論んだ、インナーブランディングをベースにした、とても素敵な事業承継の事例であると思います。

どちらの企業にも共通して言えるのは、

  1. 企業の存在価値、パーパスが非常に明確で、ブランディングにストーリー性を持って、企業ビジョンと事業を強力に接続している。
  2. 企業ビジョンに共感・共鳴する人材を引き寄せ、非連続的イノベーションを生み出せる「自走社員」を育てる環境がある。

ということだと思います。
まさにバリューチェーン全体の一連の流れの中で、企業ビジョンとマーケティング戦略が分離せず、一貫性を保ち、求心力が生まれている「ブランディング」のお手本と言えるのではないでしょうか。そしてその活動を継続して行う事こそが、次の後継者を育てる最大のポイントであると我々は考えます。

温故創新の事業承継に必要な「ブランディング」とは_image05(リブランドならYRK&)(事業承継)

事業承継を成功させる5つのポイント

最後に、事業承継成功のための新たな企業ビジョンを浸透させていくポイントを簡単にまとめておきます。

  1. 新トップが自ら、新たな企業パーパスをつくることを宣言し、社内メンバーを巻き込むこと。
  2. その上で、バックキャスティングで将来事業に向けた一貫性のある判断基準を持つこと。
  3. そのゴールまでがストーリー性を持って、語られていること。
  4. プロジェクトはトップダウンではなく、社員チームビルディングによる共創型のプロセスで行うこと。
  5. なぜこれをやるのか?「WHY」への共感と共鳴を得ること。

我々、YRK andはブランドコンサルティング事業として、企業、商品、サービスのリブランディングで培ったノウハウが多数ございます。このノウハウを活かし、持続可能な事業成長を支援する事業承継問題を解決したいと切に思っています。我々のメソッドの詳細につきましては、こちらのホワイトペーパーをご覧いただければと思います。

最後までお目を通していただき誠にありがとうございました。自社の事業を存続させ、継続させていくために課題があるとお感じの際は、是非お声をおかけくださいませ。


小俣尚_ラフショット(リブランドならYRK&)


株式会社YRK and
事業戦略室 室長
小俣 尚
Writer

株式会社YRK and
事業戦略室 室長
小俣 尚

1986年4月 株式会社 YRK and入社。アパレル業界を中心としたプロモーションから始まり、インテリア、食品、日雑、家電など、主にメーカー企業のコミュニケーションプロデュース、およびブランディングなどを得意とする。2006年、株式会社 YRK and事業部執行役員に就任。2016年、同社取締役に就任。現在、東阪事業戦略室長としてリブランドコンサルティングサービスと、BPOサービスの二つの事業を統合的に活用し、クライアントへの業績貢献を行う。