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近年、BtoC・BtoB問わず、企業がブランディング投資に力を入れるようになっています。実際、ブランディングと広告の両方に投資した企業は、10年後に広告にのみ投資した企業の6倍以上の企業価値を上げています(※下図参照)。

しかし、広告投資に比べて効果が見えにくいため、なかなか投資に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。

今回は、ブランディングと広告について、その違いや投資の効果について考え、事業成長が成功している星野リゾートの事例を交えながら解説して参ります。

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Index

  1. ブランディングと広告の違いとは?
  2. 長期的な視点でのブランディング投資が企業価値を高める理由
  3. ブランディング投資が将来的な成功に繋がる理由
  4. ブランディング投資による実例:星野リゾートの成功

ブランディングと広告の違いとは?

まずは、ブランディングと広告の違いについて確認しておきましょう。広告は一時的な認知度を高めることができますが、その効果は短期的なものが多く、広告を打ち切ると効果も薄れてしまいます。いわゆる、物を売るために都度消費してゆく“コスト(出費)”です。

一方、ブランディングは、ブランドの価値やストーリーを伝え、顧客との関係性を構築することを目的とした投資であり、長期的な視点で見た場合、企業価値を高めることができます。つまり、値上げやリピート率を向上させることが可能な「価値」を創るための“インベスト(投資)”というわけです。

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長期的な視点でのブランディング投資が企業価値を高める理由

長期的な視点で見た場合、ブランディング投資が企業価値を高める理由はいくつかあります。まずは、ブランディングにより、企業のブランドイメージが向上し、顧客の信頼感を高めることができます。顧客からの支持を得られれば、企業の将来的な成長につながるというわけです。

また、ブランディング投資には、将来自分たちの会社が「どう在りたいのか?」といった視野を持ち、企業のビジョンや理念を伝えることも含みます。これにより、企業の将来的な方向性に共感する顧客が増え、顧客満足度や顧客ロイヤリティが向上するという好循環が生まれます。よく言われる、企業の「MVV(Mission, Vision, Value)」を策定・浸透させることがこれに該当します。

さらに、ブランディングにより企業の差別化・差異化が進み、顧客にとって魅力的な存在、唯一無二の存在となることができ、市場内における確固たるポジションを形成することが可能となります。

一方、広告投資はマーケティング4Pの内のプロモーション領域であり、一過性の効果が多いことが特徴です。広告を打ち切ると、認知度が急速に下がり、再び広告を打つ必要が生じる場合があります。そのため、広告投資は短期的な戦略としては有効であるものの、長期的な戦略としては限界があります。

ブランディング投資が将来的な成功に繋がる理由

ブランディング投資が将来的な成功に繋がる理由の一つは、顧客満足度や顧客ロイヤリティが向上することにより、顧客の長期的な利用を促進し、顧客生涯価値(LTV)が向上するからです。企業は、LTVを高めることにより、将来的な売上高や利益を増やすことができます。

さらに、ブランディング投資により、企業の成長戦略が明確化され、将来的な成長の可能性を高めることができます。先にも述べましたが、これにより企業は将来的な競争力を強化することができ、市場においてより強いポジションを築くことができるわけです。

一方で、ブランディング投資は、即時的な効果が見えにくいため、投資に踏み切ることが難しい企業もあります。しかし、長期的な視点で見た場合ブランディング投資により企業価値を高め、将来的な成功に繋がることが期待できるのですが、この経営判断は、非常にセンシティブな領域ではあります。

この領域に踏み込むため、実際にブランディング投資で成功している国内企業を理解することからスタートしてはいかがでしょうか?

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ブランディング投資による実例:星野リゾートの成功

星野リゾートは、ブランディング投資による事業成長の成功例として注目されています。同社は、広告投資による一時的な利益ではなく、ブランドイメージの向上や顧客満足度の向上など長期的な価値を追求することに力を注ぐことで、新規顧客創出や既存顧客のLTVを向上させることに成功しています。

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具体的な事例を幾つか紹介します。

● 顧客ニーズに合わせた、5つのブランド展開

星野リゾートは複数のサブブランドをもち、それぞれ様々な顧客のニーズに特化したサービスを提供しています。

たとえば、一人旅やビジネスマン向けには「大人の自由な一人旅」というパッケージブランドを展開し、一人旅を計画するポイントや星野リゾートならではの一人旅スタイルの提案をしてくれます。また、ファミリー向けには「リゾナーレ」ブランドで、子供連れ家族旅行をターゲットにした、豊富なアクティビティをそろえる西洋風のリゾートホテルを展開しています。

筆者のわたし自身も、妻と息子の家族3人で「リゾナーレ八ヶ岳」へ宿泊した際、屋内プールでのSUP、家族で入浴できる露天風呂、子供と遊べる沢山のアクティビティ等、リゾート施設内におけるサービスがとても充実しており、時間を忘れて家族と愉しんだ記憶が強く残っています。

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出典:

https://www.hoshinoresorts.com/

https://www.hoshinoresorts.com/information/topics/2020/09/103392.html

https://www.hoshinoresorts.com/sp/hitoritabi/

● 高品質な顧客サービスオペレーションによる、ブランドイメージ向上

星野リゾートはインバウンド客だけでなく、国内の顧客も大切にしています。日本の観光市場の内、インバウンド比率は18%程度に過ぎないことを考慮し、インバウンドだけに依存することは避け、比率的にも規模の大きい国内顧客を大切にしています。世界的に見ても顧客サービスへの期待値が非常に高い日本人をメインターゲットとする事は、安定した質の高いサービス提供につながり、結果として海外顧客の評価にも繋がっているのです。

また、星野リゾートは「LTV(顧客生涯価値)」を重視しており、一時的な利益ではなく、顧客との長期的な関係を築くことに注力しています。たとえば、宿泊客からのアンケートやフィードバックを積極的に取り入れ、それをもとにサービスの改善や新たな取り組みを行っています。

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さらに、顧客体験価値の観点においては、特定のスタッフが一組の宿泊客に対してチェックインからチェックアウトまでの間、一貫して全ての業務(お食事からチェックアウト業務、客室業務、電話応対etc.)を担当する、マルチタスクオペレーションを導入しています。これにより、滞在中にスタッフと宿泊客が何度も出会うことで、寄り添ったサービスを提案できるだけでなく、コミュニケーションを誘発させ、顧客のクレームや要望を瞬時に聞き入れ、サービス向上へ反映させることが可能となるわけです。

私たち家族が訪れた際も、特定のスタッフの方がお出迎えからお見送りまで、一貫して丁寧なサービス接客をしてくださり、「これが星野リゾートが星野リゾートたるゆえんか・・・」と終始驚きを隠せませんでした。

以上のように、企業の独自性や強みを明確にし、顧客とのコミュニケーションを深め、長期的な顧客との関係性構築に注力したオペレーションを徹底させることが、ブランディングへの投資領域であり、結果としてブランドイメージを高めることにつながるのです。

まとめ

ブランディングと広告には、それぞれ特徴があります。広告は、一時的な認知度を高めることができますが、短期的な戦略に過ぎず、将来的な成長には限界があります。一方、ブランディングは、顧客との関係性を構築し、長期的な視点で見た場合、企業価値を高めることができます。

ブランディング投資は、即時的な効果が見えにくいため、投資に踏み切ることが難しい企業もあります。しかし、将来的な視野を持ち、長期的な戦略としてブランディング投資を行うことで、企業価値を高め、将来的な成功に繋がることが期待できます。また、星野リゾートのような成功例を見ることで、ブランディング投資が将来的な成長につながることを証明することができます。

企業がブランディング投資を行う上で、重要なポイントとして以下の3つのポイントが挙げられます。

以上のように、ブランディング投資は、企業の将来的な成長を考える上で重要な要素の一つです。そしてそれには、高品質なサービスを安定した状態で提供するために、徹底したオペレーションが必要になります。これがブランド価値を高めることになり、ブランドの世界観を構築することにつながるのです。

企業は、独自性や強みを明確にし、顧客とのコミュニケーションを深め、ブランドイメージを維持することでこそ、将来的な成長につながる強いブランドを築くことができるのです。

writer
越野 浩平