2021.03.09
メーカーは生活者にとって良い商品をつくる。小売業は商圏生活者に適した商品を選び品揃えする。本来メーカーと小売りはこのような関係のはずです。
しかし実際の商談現場は、そんな明快な役割分担にはなっていません。バイヤーはいかにメーカーから良い条件を引き出すか、メーカーにすれば競合他社よりもバイヤーの望む条件に応え、自社商品を取り扱ってもらい、さらには有利な品揃えを追求したい…。言いすぎでしょうか。こうした商談がいき過ぎると、生活者はそっちのけになってしまいます。
売場には様々な商品が並びます。特に近年は各小売業がPB(プライベートブランド)を多く扱うようになったため、メーカーNB(ナショナルブランド)との特徴差・価格差が不明瞭に見えます。客の立場からすれば同じなら安いPBでいい、そう考えるとNBは高すぎないか、となるわけです。
私はAPSP(一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会)の仕事もしており、つい最近も大丸東京店で今年のソーシャルプロダクツ・アワード受賞商品70ブランド以上の展示販売に関わりました。
人と地球にやさしい商品ソーシャルプロダクツは、その商品が生まれた背景(問題意識や目指す未来)や、誰がどのように作ったのか、そして商品としての特徴と社会や環境に対する特長を伝えることで、価値が増幅するものです。
逆に言えば、その価値が伝わらなければ、割高の商品にしか見えないのです。
売場では、わかりやすくストーリーや写真で伝え、手に取って興味関心を持ってくださったお客様には、直接お声をかけてご説明したり、質問にお答えしたりします。
そうするとお客様は感心されたり、驚かれたり、笑顔になります。
本来同じことが、一般の小売業の売場にも必要なはずです。
しかし実際には、売場はモザイク模様のように商品が並び、パッケージをよく見ないと商品特徴はわからない。だから安いものに手が伸び、高いものへの不信感が募るのです。
メーカーはそういう状況を打破するために店頭販促ツールを制作するわけですが、これがなかなか店頭で使ってもらえません。面倒だから、手間だから、場所を取るから、という理由がつきます。
キャンペーンを企画しても、店頭でキャンペーンの告知が行われなければ、お客様の購入の動機にはなりません。そこで奥の手として、メーカーはラウンダーを出します。しかし、1つ数百円の商品を陳列し、商品特長やキャンペーンを訴求するための店頭ツールをつけるために、1日2万円以上のラウンダー人件費を払うのですから、これはメーカーにとっては体力の消耗です。
一方流通企業にとっても、メーカーのラウンダーは、店舗の体力をじわじわと奪う要因となっています。店や売場の役割は、本部から指示された売場づくりを実施しつつ、自店の商圏特徴や来店客の顔を思い浮かべて、陳列の仕方や販促物に工夫をすることです。
そういう工夫があって、地域に密着した店や売場ができるのですが、その一番大事な部分をメーカーのラウンダーにまかせ続けていると、各店の現場力という体力が弱ってくるのです。
メーカーが自社商品のカテゴリーに来店客が選びやすいような名札(サブカテゴリー)をつけて、売場全体の売上(利益)が上がるような棚割りを行うカテゴリーマネジメント。これも、PBが売場を大きく占有するようになると、メーカーにとってはコストパフォーマンスが悪くなりました。さらに小売業のデジタル化も、メーカーにとっては分が悪くなりました。かつてはPOS分析など、メーカーが小売りに代わって行うことが多かったのですが、今では小売り側でほとんどできるようになったからです。
そこで私たちはメーカーと小売業の製販共創型取り組みをおすすめしています。
小売業の売場で働くパートやアルバイトは、その地域に住んでいる主婦や学生がほとんどです。つまり来店客と同じ地域に住んでいる生活者なのです。
そのパート・アルバイトは、仕事の仕方を少し変えるだけで、驚くほどいい仕事をし、店の売上に大きく貢献してくれるのです。
例えばあるスーパーで、各店舗のパートさんを対象にした『売場を変えてもいいんです』という企画が盛り上がりました。 売場のパートさんたちが自分で好きな商品を選び、販促企画を独自に考え実施するという企画で、売上も上がりました。
これにはちょっとした仕掛けがありました。パートさんたちが自分で考えた企画で売場をつくり、その売場をスマホで撮り、ネット上にコメントと共に掲載したのです。掲載された写真とコメントは、本部スタッフや他店舗のスタッフ、そして関係する卸やメーカー担当者が見ることができ、コメントを返すこともできる仕組みです。これは当社のMiinaというプラットフォームを使ってもらって実現したものです。
これまでの上意下達のオペレーションでは、本部から店や売場に対して、「やったかどうか」「成果はどうか」というチェックと検証が中心でした。
一方、Miinaを使ったオペレーションで重要になるのは、「現場の見える化」です。
自分がつくった売場を撮ってMiinaに掲載すると、他の売場の写真も見えるわけです。自分の方がいい売場だとか、あの店の方が上手だとか、自然と競争心を掻き立てられます。
さらに、掲載された売場の写真とコメントに「フィードバックする仕組み」があります。「いい売場だね!」とか「これつくるの大変だったでしょ」というコメントがあるとうれしくなります。それが本部のバイヤーや、対象商品のメーカー担当者からのコメントであれば売場はイキイキしていきます。
売場のパートさんやアルバイト、社員にとってさえ、本部のバイヤーや販促マネジャーは雲の上に近い存在です。メーカーの担当者は、あのメーカーあのブランドの「中の人」という感覚です。
こうした本部と売場、メーカーと売場の双方向コミュニケーションによって、自分の企画でつくった売場を誰かに見せたくなり、もっとレベルの高いことにチャレンジしたいという気持ちになるのです。
「やらされている」仕事が、誰かのために「やりたい」仕事に変わります。面倒なツール設置も、手間のかかるディスプレイも、「見てもらう」ため、フィードバックをもらうためになり、それが結果として「お客様に喜んでもらう売場づくり」につながっていくのです。
このように売場が活気づいて魅力的になれば、「ファン」「愛顧客」が増えていくはずです。
今までの本部商談中心の取り組みは、メーカーの企画をやらせて「アゲル」という流通企業の姿勢。メーカーはやらせて「イタダク」という姿勢。メーカーはやる以上、自分たちでなんとかしないと企画が店頭で実施されないかもしれないと、高いコストでラウンダーを出し、やらせて「イタダク」のです。
そうすると、本来主人公であるはずの店や売場にすれば、本部とメーカーが勝手に「ヤッテイル」となってしまうのです。
店や売場が主人公意識を持たない他人ゴトの姿勢で、うまく行くはずがありません。
小売業とメーカー、それに生活者の代表としての売場の社員、パート・アルバイトがオペレーションを自分ゴト化する、新しい共創型取り組みにチャレンジすることをおすすめします。