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&magazine #07

タイルをアップサイクルし、「ソーシャルプロダクツ」へ。社会性を付加価値にした商品開発の誕生秘話。

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株式会社平田タイルは、1919年に京都にて陶器店の“建築陶器部”として創業した老舗の住宅設備メーカーです。タイルと水まわりの総合プロデュース企業としてインテリアの本場イタリアをはじめ、世界各国からデザインと品質に優れたタイルを厳選。ファブレスメーカーとして日本国内でも自社企画商品も製造し、サステナブル社会と共存できる新しいタイル文化を築き上げておられます。

今回の対談ではタイルのサステナビリティに着目し、ソーシャルプロダクツの製品開発を行なわれたその誕生秘話を、同社マーケティング部 商品企画課の橋本様にお話を伺いました。モデレーターは、YRK&TOKYO取締役 兼 一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長の深井賢一が務めます。

「ソーシャルプロダクツ」の開発で、経営理念を体現化させる

経営理念

株式会社平田タイルは、
社会の公器としての自覚と

明るい豊かな生活の
向上に努力します。

株式会社平田タイルは、
創意と情熱と技術をもって、

ユニークな企業として
建築文化に貢献します。

こんにちは。今日は、平田タイル様が初のアップサイクルタイルを開発し、ソーシャルプロダクツとしてラインナップを展開されるに至るその理由や、開発経緯をお伺い出来ることを楽しみにしていました。何卒よろしくお願いします。

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

遡ること1年前、私は御社の平田常務とトークセッションをさせていただきました。その際、常務は「経営理念実現のために、今後はSDGs、ソーシャルプロダクツの理念を取り入れた製品開発、サービス、プロモーションが欠かせない、そしてリサイクル商材に挑戦したい。」ということを力強く仰っていました。そして、平田タイルとしてソーシャルプロダクツ開発に挑戦をするため、私たち一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進局(以下、APSP)が2021年7月から9月にかけて5回開催した「ソーシャルプロダクツ開発集中講座」に、橋本さんがご参加くださいました。

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はい。常務と深井さんの対談に立ち会った際、すでに私はSDGsに関する商品開発の想像はしていたものの、実際に取り組むためには専門知識やノウハウが必要であると考えて、集中講座を受講させていただきました。

集中講座の中では、体験型のワークショップでアイデア出しやノウハウの共有を繰り返していましたが、最終日には、橋本さんからソーシャルプロダクツ開発についてのプレゼンテーションをして頂いていました。本日はぜひ、その後の開発プロジェクトの経緯について、平田常務が宣言された1年後の今の姿をぜひお聞きしたいと思います。

※ソーシャルプロダクツ=人と地球にやさしい商品・サービスの総称のことで、持続可能な社会の実現に貢献するもの。引用:一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP)

開発プロジェクトの経緯

橋本さんは、開発責任者としてAPSPの集中講座に参加されました。その後実際に商品開発に至るまでのお取り組み、まずはその辺りのお話をお聞かせいただけますか?

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そうですね。APSPの講座へ参加した際には、数多くの事例を教えていただきました。そして、それらをタイルの開発責任者としてそしゃくをして、自分たちの業界でどう展開させていくかを発想し、実務へと展開させていった形になります。アウトプットさせるまでに約1年かかりましたが、この春の新カタログでようやく掲載までこぎつけました。

APSPの「ソーシャルプロダクツの商品開発」の考え方には、「プロダクトの開発」だけではなく、「サービス」も含むということだったので、私たちは新しく「カーボンオフセット」を取り組みとして加えました。

弊社主要取引先であるオランダのROYAL MOSA社は、永年持続可能な地球環境の実現への意識が高く、過去10年でCO2排出量を48%も削減させているんですが、このカーボン・オフセットのプロセスにおいては、タイルの製造、流通、廃棄の際に排出される温室効果ガス(CO2)を国内、海外それぞれの排出量に応じて、森林由来のクレジットを活用しています。平田タイルでもこの活動を基点とし、地球温暖化の抑制や森林資源を守る取り組みを積極的に進め環境活動に貢献しています。

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そのため、日本でより多くの人にこの商品を知ってもらうための仕組みづくりとカーボンオフセットをかけあわせた、そんなサービスを私たちの手で創り上げていこうという風に考えたんです。

詳細はこちら:https://tiles.hiratatile.co.jp/journal/12552

なるほど、ソーシャルプロダクツを開発・販売するだけでなく、製造する過程においてもCO2排出を削減させ、サステナブルな事業展開を考えておられるということですね。

別視点からの質問ですが、こういった新規プロジェクトを推進していくと、どうしても社内での分断が生まれることが大いにしてあります。例えば、サステナビリティへの意識が高いチームと、そうでなく、「また何かはじまったな・・・」というネガティブな意識しか持てないチームのように。そういった社内への浸透、巻き込みはどうやってされてきましたか?

このプロジェクトが始まる前から会社の方針としてSDGsの思想や、ソーシャルプロダクツの拡販施策について社内へ伝えていたこともあり、比較的スムーズに浸透していきました。お客様も非常にSDGsへの興味関心が高いということもあり、期待に応えたいという営業は積極的に活動をしてくれて、社内が全体的に盛り上がっていったように思います。

まず、トップの意思がある上で、さらにお客様の反応もあり、営業の皆さんも意識を変えることができたということですか。とても素敵ですね。

差別優位性を見出すための3つのポイントとは?

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SDGsは2030年に誰一人取り残さず達成するという建前があるので、これから先、多くの企業が必ず着手します。そしてそういった企業が増えれば増えるほど、同質化することが考えられます。

同質化が進む一方で、どのように差別化し、価値を見い出すのかが、非常に重要になってくると思います。そういった意味では、先程もありましたカーボンオフセットへの取り組みも「平田タイルらしさ」という差別優位性を創造していく必要がありますね。

そうですね。これからも、差別優位性を創造するための試行錯誤が必要になります。

差別優位性を持たせるために、ソーシャルプロダクツ開発集中講座でもお伝えしている重要なポイントが3つあります。

Why:なぜはじめたのか?
How:どのようにして進めたのか?
Who:誰をまきこんだのか?あるいは誰が中心になってやったか?

ここに今回は随分と工夫されたとお聞きしました。この辺りも詳しくお話いただけますか?

point① “なぜ(WHY)” このプロジェクトを始めようと思ったのか

まず、“なぜはじめたのか”という点ですが、タイルが持つ“ある問題”を解決したいと考えたからです。最初は「タイルで何ができるのか?」と、考えるところから始まりました。タイルは元来“土を固めて焼いたもの”という非常にシンプルな素材です。建物を守る上で経年劣化の少ない非常に強くていい建材なんですが、一度出来上がってしまうと逆に処分などが難しくなってきます。

毎日たくさんのタイルがサンプルとして出荷されるのですが、処分が出来ずに困っている方が沢山います。また住宅建材現場においては、タイルは割れ物なのでどうしても余分に用意せざるを得ず、余ってしまう端材があります。さらに私たちメーカー側では廃番が出て、どうしても捨てないといけなくなってしまったり…。こういった様々な領域で「タイルの処分問題」がありました。それをなんとか土に戻して、もう一度価値のあるタイルにできないだろうか?という発想が今回のスタートになりました。

point② “どのように(How)” プロジェクトの課題を乗り越えたのか

素晴らしいですね。このように平田タイルさんが先陣を切って、処分に困ってしまったタイルたちをリサイクルする取り組みを始められたわけですが、業界全体でも同様の問題が起きていると思います。そして、今お話を聞いているだけでも、色んな工数がかかるイメージがあります。昨年の対談の際、平田常務もコストが一つの課題だと仰っておりましたが、そのあたりはいかがでしょうか?

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そうですね。天然資源をもとにつくられるヴァージン原料からそのまま製造した方が手間も少ないしコストも安く済むのですが、両立できるようにし、現実的な価格帯に抑えるところが今回の開発で一番難しかった部分です。

そんな中、APSPのソーシャルプロダクツ集中講座を受講して国内の様々な事例を学んだことは大きかったですね。業界も違えば取り組みも違いますが、学んだことは「出来ない理由を探さない」ということです。これが最も重要だったことのように思います。

だから、この取り組みは一部の大企業がするものでも無く、また波及効果の大小ではなく、まずは問題解決に向けて一歩進めることが大事だと思って進めました。そして、単に処分に困る廃棄物削減の課題解決や、ヴァージン原料の減量に結びつけるという「エコ商品を作りたい、売りたい」だけの取り組みにならないような目標設定をしました。

point③ “誰を(WHO)”巻き込んだのか? プロジェクトに必要な共感の輪とは?

それでは最後のポイントとして、「誰を巻き込み、プロジェクトを進めていったのか」を教えてください。

はい。まず弊社はファブレスメーカーのため、共感を得られる工場を探すところから始める必要があります。私たちプロジェクトメンバーは、実現に向けてタイル製造工場、原料供給元へと声をかけ、ソーシャルプロダクツの考え方や商品のあり方について説明をし、少しずつ共感の輪を拡げていきました。また、今回開発したソーシャルプロダクツである「テラクル(Terracle)」を製造するには、不要になった見本や、現場の端材などを継続的に収集し続けなければなりません。そのため、お客さまのご協力が今後も必要になります。

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なるほど。まさに、協力してくださる原料供給元や製造工場から、お客様までを巻き込み、大きな共感の輪を創り出したプロジェクトになったということですね。平田タイルさんがソーシャルプロダクツ旋風を巻き起こしたといったところでしょうか。

そうだと嬉しいです。

値上げを付加価値へ転換。ソーシャルプロダクツに対して生活者が求めていることとは?

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今、報道が値上げ一色になっていますが、値上げをどのように付加価値へと転換できるのかということが、これからの社会では重要になると思っています。

例えば、人件費の高騰、人権問題、紛争・戦争、天然資源の減少、農作物不作、異常気象など、複合的な社会問題が元となり値上げが起きています。どれだけ付加価値へと変えられるかが、企業としては正念場となっています。その上で、リサイクルも含めた取り組みにかかるコストを付加価値へと転換し、社会全体で受け入れていく、許容ができるような社会をつくっていくのが大事だと思うのですが、平田タイルさんは、今まさに果敢にチャレンジされていることだと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

そうですね。先ほど申し上げたように、サステナブルな商品は、ヴァージン原料から製造するよりも高価になります。そこの価格差をどう付加価値へと変えていけるのかが、重要になると思うんです。実は今日ショールームにて新商品の発表会を行ったのですが、「サステナブルであること」が付加価値としてお客様に捉えていただけるのか?を調査すべく「サステナブルな建材を使いたいですか?」とアンケートを実施しました。結果としては、96%以上の方が「サステナブルな建材を使いたい」を選んでくださっており、その中でも「コストが高くても使いたい」が46.3%、「コストがそのままだったら使いたい」が44.7%という結果が出ています。

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ぎりぎり「コストが高くても使いたい」という人が多かったのですね!しかし、拮抗してますね。これはおもしろいです。

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過去に実施した我々APSPの自主調査においても、「値段が高くても購入したいと思う社会性ってどんなことですか?」というアンケートに対して、「商品や事業を通した活動:23.9%」「その企業やブランドらしい活動:22.0%」という結果が出ています。この2つは、生活者が今の企業の事業や商品サービスの延長線上でいいですよ、という風に言っているということなんです。

これって実は、企業にとってはそこまで難しいことでは無いと思うんです。平田タイルさんのように、自社や業界で抱えている問題解決は、自社の商品の延長線上にあるということを教えてくださっているわけです。そう考えると自信が出てくるんじゃないでしょうか?

そうですね。自分達の活動はよい方向へ進んでいるのだと感じることができます。

平田タイルが考える、ソーシャルプロダクツを起点とした事業展望とは?

最後に橋本さんから、平田タイルさんとしてのこれからの展望、活動、将来についてお話いただきたいと思います。

はい。平田タイルは「デザイン、トレンドを発信していきたい」ということが根本にありますので、今回のようなソーシャルな商品、環境配慮のものもデザイン性は妥協せず、みなさんにご理解いただけるものを提供していきたいなと思っています。また継続的に、この取り組みが続けられるためには、ビジネスとしてもしっかりと両立できるようなものにしなければいけないと思っています。

今回、創り上げたタイルがこちらです。

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「テラクル(Terracle)」というネーミングをつけた商品で、イタリア語で土を意味する「Terra」と、英語で再利用を意味する「Recycle」の造語です。2品番だけなんですけれども、不要になり廃棄されるタイルを一度粉砕して土に戻して再び成型して焼き上げるという工程を踏んでいます。こういった商品をもっと幅を広げていったり、色んなデザインにして表現が広げられれば良いなと思っています。

モダンですね。いい色合いで素敵です。

ありがとうございます。このタイルは、表面に何も色を加えたりしない。土そのものが出るようなデザインにしており、粒子をいかに均一にできるかが、タイルの最終の仕上がりを左右するので、非常に苦労をした部分でもあります。

詳細はこちら:https://tiles.hiratatile.co.jp/journal/12649

平田タイルさんの取り組みが業界全体の取り組みになってほしいと思います。先ほどおっしゃっていた「デザインを重視する」。それから「ビジネスにしていく」ということは、とても大事だと思いますし、取り組みが成功して、さらに展開されることを祈っております。

ありがとうございます。

橋本さん、今日は本当にありがとうございました。

ありがとうございました。

&magazinとは?

事業の変革を通じて、様々な危機を乗り越え、時代の牽引者となった、企業家・経営者様に焦点を当てたプロフェッショナル同士の対談記事です。
過酷な経営者業を生き抜くための、事業変革やリブランディングのヒントになれば幸いです。

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