「日本酒」はブランディングの力で、どう強くなるべきなのかTOPimage(リブランディングマガジン)(事業変革)


「杜氏」「蔵人」といった酒職人を筆頭に日本古来から伝わる製法を守り抜き、日本独自の文化を継承し続ける日本酒。ある種の日本の伝統工芸品として「獺祭」や「梵」といった有名銘柄も誕生し、輸出量は拡大し続けています。

(2021年の輸出総額は401億円以上に達し、12年連続で過去最高)

しかし、国内では、減少傾向にある日本酒市場。コロナショックによる家飲み市場で、若干の需要の回復があるものの、日本の酒類市場3兆円の内、日本酒はわずか17%程度の規模しかありません。このままでは、伝統的製法を活用した「酒造りの文化」や「職人」を経済的に守る事が難しく、持続可能性を問われる状態にならざるをえません。

そんな中、ブランディングの力で日本酒市場を生き返らせる動きが少しずつ活発になっています。今回は、日本酒市場をブランディングの力でどう活性化できるのか?欧州のワインと対比しながら、事例を交えて考察したいと思います。

Index

  1. 一流のブランディングを行う、欧州ワインの戦略。
  2. 「価値の見せ方」に違いがある
  3. 目指すポジションは
    「プレミアム」ではなく「ラグジュアリーブランド」
  4. NFTで加速する、日本酒のリブランディング
  5. 価値を高める=サステナブル性を高める

一流のブランディングを行う、欧州ワインの戦略。

ストーリーで語られることが多いワイン。その奥深さは計り知れません。
品種や産地はもちろん、国の歴史や人物、製法やビジネスの仕組みに至るまであらゆるストーリーが語られる。「味の半分は、ストーリー」と言われることがありますが、まさにその物語と共に味わう感覚さえあります。その背景としては元々、欧州文化自体がラグジュアリーブランドの歴史や伝統を「高い価値」に昇華し、高価格帯路線で販売することが得意な文化形成があることも大きな要因であると思います。

参考コラム:#海に守られている国と陸に囲まれている国

「日本酒」はブランディングの力で、どう強くなるべきなのかimage01(事業変革)(リブランディングマガジン)

しかし、日本酒もストーリー性では負けていません。ヴィンテージの考え方こそないものの、品種から仕組みに至るまであらゆるこだわりは奥深く、感動さえある。まさに日本人の丁寧なモノづくりが息づく味わいがあります。

ところが、値段を見てみるとどうでしょう。ワインは5万や10万のレベルはもちろん、20万、50万、100万円!なんて代物も存在しますが、百貨店に並ぶ日本酒をずらりと見渡せど、そこまでの値段を掲示しているものは見当たりません。探せばきっとたくさんの一流品があるのでしょうが、お茶の間にはそんな代物の情報は、ワインほど出てこないのです。

「価値の見せ方」に違いがある

この違いは、そもそもの「価値の見せ方」が違うのではないか?ということにあります。つまり、日本酒に付けられている価格は、基本的には「原価を積み上げていった結果」、その価格(価値の見せ方)になっているのに対し、ワインの価格設定は、これくらいのブランド価値がある!という誇りや想いが先にある。すなわち値付けという価値の表現そのものの考え方自体に違いがあるのです。ワインは、「価格自体もブランドデザインを司る1つのファクターである」、というふうに捉えているのかもしれません。

目指すポジションは「プレミアム」ではなく「ラグジュアリーブランド」

では、どうやったら価値を高められるのか?
それには、日本酒を通じて自分たちが「お客さまに提供できる価値は何か?」を追求することが必要です。「おいしさ」という機能的価値を高めるだけではなく「所有欲求や、嗜む際の高揚感」といった情緒的価値を提供すること。

さらに、それを「相対的な価値」ではなく「絶対的な価値」として造り手が自信をもって発信することが重要です。そうすることで、価格を造り手自身で決めることができ、価値を高めることにつながります。

コンサルタントコラム_高級ブランドに存在する二つの解釈_image04方程式(リブランドならYRK&)

これはまさに、「憧れの数値」を最大化させるラグジュアリーブランドの戦略と同じであり、競合ブランドが存在する中で、相対的に見て高付加価値なカテゴリーと定義される、プレミアムブランドとは戦略が全く異なるのです。

参考コラム:#「高級ブランド」に存在する、二つの解釈。

NFTで加速する、日本酒のリブランディング

今年5月に、「日本酒の価値をNFTアートで世界に届ける」というミッションを掲げ、(株)小野酒造店と(株)Torchesが共同事業で、日本酒の作品価値をNFT※でも持続的に保護しブランディングする仕組みを取り入れた純米大吟醸が、数量限定で発売されました。

価格は何と1,230,000円。

寝かせることでヴィンテージ価値が付くワインと異なり、日本酒の賞味期限は1年以内が目安。飲み終わったら価値がなくなるので、先述した「絶対的な価値」を長期間継続させることが難しく、ラグジュアリーブランドとして価値を上げづらい側面があります。(希少性が高まることで投資価値が上がるといった所謂「ワイン投資」のような流通が不可能)

この問題の解決策として同社は、日本酒を味わった後もブランド価値を永続的に保ち続け、そこに込めたメッセージを世界中に届けられるように、ボトルとパッケージに「絶対的な価値」を付与しました。

パッケージには、有名浮世絵師による本格的な描き下ろし。ボトルには、漆加工職人の手仕事による絵付け。これらのデザインは1点1点全てにシリアルナンバーが付与され、NFTアートとして認証されるそうです。

既にウイスキーやワインはNFTマーケットで多数流通していますが、日本酒もボトルデザインに日本の伝統工芸や職人技を施すことでNFTとの親和性が高まります。NFTは、今後日本酒ブランドの価値を高める加速装置になりそうです。

※「代替できない=唯一無二の価値」を持ったデジタルデータ

価値を高める=サステナブル(持続可能)性を高める

ワインも日本酒も、古来から伝わる職人製法で商品ができあがります。
酒造や農家等の造り手が減少する中、今後生産量を増やすことは難しく、今のままの価値(販売価格)では、「酒造りの文化」や「職人」を経済的に守ることができず、持続可能性を問われています。

さらには原材料費の高騰による販売価格の押し上げといった、価値が変わらぬままの値上げが今、あらゆる市場で急速に増えてきています。

今こそ、ブランディングの力で価値を高め、生産者・メーカー・販売者といったサプライチェーン全ての関与者を守り抜き、持続可能な事業をデザインしなければならないタイミングです。

その為には、まずは自社の強みや独自性を改めて理解し、提供できる価値に誇りを持ち、発信し続けることが自分達のブランドを成長させることにつながるのだと思います。

※本コラムは「#日本人の良き性格が招いたブランドの弱さ」から一部文章を引用し改訂版として執筆しています。

writer
戸田 成人 / 越野 浩平