2025.12.01
日本企業はもう終わった。
そんな言葉を、もう何年も聞き続けてきました。「失われた30年」「国際競争力の低下」「スタートアップ後進国」。ニュースに目を通せば、日本の未来は暗く見えるかもしれません。しかし、JTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれる日本の伝統企業の現場を歩いていると、まったく違う景色が見えてきます。
それは、“静かに逆襲のチャンスが熟しつつある”という感覚です。しかもこれは精神論ではなく、データが物語り始めた“必然”なのです。
ここで紹介する7つの潮流は、すべて日本企業が新たに作り出したものではありません。むしろ、昔から持っていた価値が、世界情勢とデジタル革命によって、再び“世界標準として求められ始めた”ということなのです。今日は、そんな視点からコラムを綴っていきたいと思います。
かつて世界は「成長」「スピード」「破壊」を称賛しました。しかし、地政学リスクが爆発的に高まった現在、世界はその反対を求め始めています。JBIC(国際協力銀行)の調査でも、海外投資判断において「政治的リスクの低さ」「法制度の安定性」が、年々重要性を増しているというデータがあります。
日本企業にとっては、あたりまえすぎて意識すらしてこなかった「約束を守る」「ルールが急に変わらない」「取引が長く続く」という価値が、今、世界ではプレミアム(割増の価値)として評価され始めています。
世界が不安定になればなるほど、安定した国に資本とパートナーが集中していく。JTCが本来持っていた「信用の厚み」が、ようやく世界に評価される時代に入ったと言えるでしょう。

AI が発展すると、人間の価値はなくなる。そんな議論がありますが、実際にはその逆も一部生まれてきています。技術が高度化すればするほど、「異なる技術を融合させる力」「現物を見て微調整できる経験知」が強烈に求められます。
経産省の調査では、日本の製造業は依然として世界トップレベルの品質安定性を誇ります。これは、図面通りに作るだけでは到達できない領域です。Amazonが日本のサプライヤーに強い信頼を寄せて、トヨタの工場のアンドンを採用したのも、まさにこの“擦り合わせ”の力が理由だと言われています。
つまり、AIがどれだけ進化しても、JTCの現場に蓄積された“暗黙知”はコピー不可能。これは、世界が喉から手が出るほど欲しがっている能力なのです。

2024年度末時点の日本の企業の内部留保は、金融・保険業を除く国内企業で「約637兆円」。世界でも突出した数字になりました。「溜め込みすぎだ」という批判もありますが、見方を変えれば、欧米企業が金利高騰で資金調達に苦しむ今、JTCは最も有利なポジションを持つ陣営だと言えます。
内部留保は守りではなく、攻めの資金です。M&A、新規事業、DX投資、海外展開、研究開発など、次の一手の余剰でもあります。欧米企業が足踏みしているこの瞬間こそ、日本企業は一気に攻めに転じられる。日本企業は100年に一度のチャンスの真ん中に立っています。

東証の 「PBR 改善要請」※1をきっかけに、日本企業の資本政策が激変し始めました。この改革は単なる“株価のための対策”ではありません。
それは、日本企業にとっての問い直しです。「私たちの価値は何か?」「なぜ、それが市場に伝わっていないのか?」長年、「目立たず誠実に働く」という文化を持ってきた JTCにとって、市場への価値説明は決して得意分野ではありません。
しかし、その奥ゆかしさの裏には“本当は世界でトップクラスの価値を持っているにも関わらず、語られていないだけ”ということがたくさんある。PBR改革は、JTCの本当の価値が世界に再認識されるきっかけになるはずです。

日本の省エネ技術が世界トップであることは、IEA(国際エネルギー機関)が毎年のようにレポートで示しています。
特に、水素、アンモニア、次世代電池などの分野では、特許出願数でも世界上位。環境規制の厳しい欧州企業にとって、日本企業の精密な技術はすでに不可欠な存在になりつつあります。脱炭素の世界では、「派手なスケール」より「地味だが壊れない技術」が求められます。これはまさに JTC の得意分野です。

JTCは DX後進国と言われます。しかし、後発だからこそ、最新のクラウドネイティブ技術を“一足飛び”で導入できる環境が整っています。欧州も米国も、古いレガシーシステムを抱えたまま DX を進めざるを得ません。つまり、彼らは常に「二重構造」を抱えています。
一方、日本企業は「遅れていた」ことで、最新のAI基盤を“最初から最適な形”で構築できる。これはまさに、“後発の特権”。野球で言えば、9回裏の攻撃権を持っているようなものです。

TSMC熊本誘致※2に象徴されるように、国家レベルで「製造大国ニッポン」を復活させるための投資が始まりました。
それは、単なる工場誘致ではありません。AI・ロボティクス・自動化技術に“熟練技術”を掛け合わせることで、世界最高レベルの高度な生産体制を実現するという国家の意思です。
アメリカは深刻な人材不足。欧州はエネルギーコストが高騰。中国は政治リスクが上昇。そんななか、「安全に、正確に、精密なモノを作れる国」は日本しかありません。

このフレーズは決して誇張ではありません。世界経済のOSそのものが、今まさに“日本企業が最も得意とする方向”へと傾き始めています。

すべて、日本企業が一番得意としてきた価値です。そして、これらの価値を“言語化・構造化”し、「ブランド」として再構築すること。これこそが、リブランディング支援会社の腕の見せ所です。
JTCが世界をもう一度リードできるかどうかは、変革できるかではなく、“変革できる強みをすでに持っていることに気づけるか”にかかっているのかもしれません。
【補足説明】
※1 東証の 「PBR 改善要請」
PBR(株価純資産倍率 Price Book-value Ratio)とは、株価が企業の1株あたりの純資産の何倍になっているかを示す指標。東証は2023年3月末に、特にPBRが1倍未満の企業に対し、企業価値や株価を高めるための具体的な計画を開示し、投資家との対話を増やすよう求めました。企業はこれに対応し、成長への投資や株主還元(配当や自社株買い)の強化などの取り組みを進めています。この要請は市場に大きな話題となり、日経平均株価が年初来高値を更新するなど、株式市場に大きな影響を与えました。
※2 TSMC熊本誘致
かつて「シリコンアイランド」と呼ばれた九州の半導体産業の復活に向け、世界最大の半導体受託製造メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)が、日本で初となる工場を熊本県に建設するプロジェクト。この誘致は、日本国内だけでなく世界と日本にも波及する大きな影響を及ぼすと想定されており、経済安全保障上の要衝とも見なされています。