#「顧客を仲間にして」難局を乗り越える「Cソーシング」


 

マーケティング施策がマンネリ化している・・・と思ったら

メーカーのプロモーションなどの仕事をしていると、「キャンペーンやプロモーションがマンネリ化している」「飽きられている」というメーカー側の声を聞きます。常に新しい商品、新しい提案、新しい情報を提供しなければならない、という意味で、提供すべき相手は生活者やエンドユーザー(顧客)ということです。

 

しかし、本当にそうでしょうか?

 

売場にもネット上にもモノや情報があふれている今、生活者やエンドユーザーがマンネリに感じたり飽きたと思うほど、実際にはメーカーや小売りからの提案も情報も届いていません。

 

 

ところで、私たちYRK&の提供サービスに、リブランディングがあります。ここ数年、各企業からご好評をいただいているサービスです。

 

かつてのように新商品がヒットしにくくなり、新しい商品を出しても研究や開発、それにマーケティングにかけた投資を回収し、さらに利益を生むことが難しくなりました。

一方で、利益を上げている商品やブランドを見渡してみると、そのメーカーに昔からある、なじみ深い看板商品が、コツコツ稼いでくれているのです。

しかし、利益の源泉ともいえる、その商品やブランドのファンも、いっしょに歳を重ねてしまっているという問題が浮き彫りになります。

そこで、新しいファン(エンドユーザー)づくりをしていこうというのが、リブランディングのご好評の背景です。つまり、「マンネリ化している」「飽きられている」とメーカーが言うほど、生活者には情報も提案も、商品そのものさえも届いていないということがありがちなのです。

 

 

「顧客を感動させる」!?

これまでもこのコラムで、メーカーや小売業と顧客との関係を変えるべきだ、と主張してきました。売り手と買い手という関係を、仲間・同志という関係に変えるという主旨です。フィリップ・コトラー先生も著書「マーケティング4.0」の中で、「究極の目標は、顧客を感動させて忠実な推奨者にする」ことだと述べています。

しかしここでひっかかるのが、「顧客を感動させる」ということです。

感動させるための新しい施策、驚くような企画に頭を悩ませることになるからです。

顧客を感動させる企画なんて、そう簡単には出てきません。

また、「忠実な推奨者」という言葉に、SNSを使ったインフルエンサーマーケティングやバズマーケティングを思い浮かべる方も多いと思います。

しかし、これらのマーケティング(というより正確にはコミュニケーション)手法は、期待した成果がなかなか出ずに、苦い思いをした方も多いと思います。

そこで、先に指摘した2つのことを思い出していただきたいと思います。

 

1つは、企業が思うほどエンドユーザーには、情報も提案も届いていないということ。

もう1つは、既存の商品にはすでにファンがついているということです。

 

 

SNSが進化しました。生活者ともエンドユーザーとも双方向にコミュニケーションをとることが簡単になりました。しかし、意図してバズらせることは非常に難しいものです。やりすぎると「炎上」リスクも考えられるので、わかっちゃいるけど思い切った手を打てないということはよくあります。

 

 

そこで、YRK&が提唱しているのは、「カスタマー・ソーシング」、もしくは「コンシューマー・ソーシング」です。つまり顧客や生活者を源流にした情報流づくりで、まさにカスタマーのC、コンシューマーのCをとって「Cソーシング」と呼んでいます。

新たな仕掛けによって「顧客を感動させる」のは、非常に難しいものです。ましてや、コトラー先生の言うように「感動によって、顧客を忠実な推奨者にする」ことはもっと難しくなります。

Cソーシングとは、企業から新たに仕掛けるのではなく、生活者や顧客が持っている情報やアイデアを集めるという方法です。

 

 

生活者や顧客が参画する「Cソーシング」


 

たとえば、イケアは、「#家でイケアとできること」というキャンペーンを実施していました。

このキャンペーンは、こんなメッセージからはじまります。「わたしたちがいま、家でできることはなんだろう。家はいま、これまで以上に大切な場所だから。あなたが家でどのように過ごしているか、イケアの家具や雑貨と写真/動画を撮影してInstagramに#家でイケアとできることをつけて投稿してください」。

https://www.ikea.com/jp/ja/campaigns/at-home-with-ikea-pub9bf267f0

キャンペーンはすでに終わっていますが、「#家でイケアとできること」というページには、投稿されたそれぞれの家庭で使われているイケア商品の生活実感あふれる写真が100以上並んでいます。

 


 

またベビー用品メーカーのコンビ㈱は、コンビユーザーによる口コミ投稿ページ「コンビタウン」を持っています。
https://combitown.jp

ここには、ベビーカーやチャイルドシートなど、コンビ商品がメニューとして並んでいます。そしてそれぞれの商品ごとに、ユーザーが使用写真を付けて、使用した感想やおすすめのポイントをコメントし、投稿しています。

驚くのは、ユーザー一人あたりのコメントの文字量です。自分の子どもへの愛情がそのまま商品への愛着につながり、これからベビーカーやチャイルドシートを買おうというママさんたちへの説得力ある推奨コメントになっています。

 


 

最後に紹介するのは、カゴメ㈱がケチャップの購入促進のために展開した「推しナポ」キャンペーンです。生活者自身が推すナポリタンを、写真とコメントで投稿してもらうという仕掛けです。https://c-so.net/kagomesp/

このキャンペーンもすでに終了していますが、今でも見ることができます。

そしてやはり驚くのが、投稿から一人一人のナポリタンへの愛情が伝わってくることです。写真も工夫が凝らされており、コメントにも熱が入っています。そして何より投稿されたナポリタンの数。まさにカゴメオリジナルのナポリタン事典ともいえるバラエティの豊かさです。

 


 

これらの事例に共通していることは、生活者(≒コンシューマー)、エンドユーザー(カスタマー)をソースとした情報だということです。

しかも、商品やブランドに対する愛情あふれるコメントと写真が多く、そしてそれぞれがセールスポイントを熱く語っていることです。

一人ひとりの情報は、プロのライターのコピーや料理人がつくったレシピに比べれば未熟だったり、薄い内容かもしれません。しかし、その商品やブランドのファンが語っているという点で、圧倒的な説得力や共感力があります。

そしてその量によって、厚みもバラエティの豊かさも出ています。

 

想像ですが、カゴメが、ナポリタンのように誰もが知っているメニューを提案したところで、もしかしたら流通のバイヤーは「今さらでマンネリだ」「もう飽きたからもっと新しいメニュー提案を」と言うかもしれません。しかし、生活者やエンドユーザーが熱く語っているとしたら、バイヤーの受け取り方は変わるはずだと思います。

 

 

 

「何を言うか」から「誰が言うか」〜

 

あらためてコトラー先生のマーケティング4.0を引用するまでもなく、生活者がモノやサービスを選ぶ基準は変わってきました。

これまでは、機能や性能・効能など、技術や物理的なモノとしての品質によって選ばれてきました。

当然メーカーも機能や性能を訴求することになります。それによって、機能競争・性能競争が活発になり、その反動による価格競争も激しくなりました。

しかし、そうして高度化した機能や性能は、スペックという数字の上だけ、あるいは説明されたメカニズムを「なんとなく」理解したような気にはなるのですが、実際には使用しても実感できないということが多くなってしまいました。

そして、スマホやテレビに代表されるように、自分のモノであるにも関わらず、機能を使いこなせていないという実感のほうが大きくなっているのです。

逆に言えば、どれを選んでも必要十分に実感できる機能や性能は備えているということです。食品であれば、日本のメーカーなら、衛生上の問題はまず無いはずですし、多少の好みはあっても、予想外にまずいということは考えられません。

そうなると、機能や性能による物理的な比較差、差別性というのは、もはや選択時の重要な要素ではなくなるのです。

機能や性能においては、実感できるレベルでどれも十分だとすれば、選択の決め手となる重要な要素の一つは、「誰が勧めているのか」ということになります。

その時に説得力を持つのは、同じ目線の生活者であり、すでにその商品やブランドを使っている先輩ユーザーの言葉なのです。

 

 

今まで商品やブランドを伝える時に、「何を言うか」に私たちは頭を悩ませてきました。

しかし、これらの事例からもわかるように「何を言うか」よりも「誰が言うか」が重要になっています。

「伝える側」にいるメーカーや小売企業にすれば、ずっと言い続けてマンネリ化していると思っていても、実はまだまだ届いていないことが多いのです。

そして届いていない人に、今までと同じように伝えようとしても、今までと同じように届きません。

そこで、エンドユーザーである顧客を仲間・同志として一緒に伝える活動に参加してもらえばいいのです。

 

イケアのキャンペーン名称が、「#家でイケアとできること」でした。この「イケアと」という言葉には、「イケアと一緒に」という意味が感じられ、まさに仲間・同志と位置付ける魔法の言葉になっています。

 

コロナによって、私たちの衛生感覚や人と人の物理的な距離感が変わりはじめています。一方で、デジタル上でのミーティングや商談、ネット上での帰省、オンライン飲み会など、新たな距離感や関係性が生まれています。

売り手と買い手という関係を仲間・同志の関係に変えるということは、自社の商品やブランドを使ってくださっている顧客の声に、真摯に耳を傾けるというマーケティングの原点に立ち返るということなのかもしれません。

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株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi
Writer

株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長
1989年 株式会社 YRK and入社。マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーション、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。
現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入するためコンサルタントとして活躍。