ブランディングコラム_Aesop_pc(リブランディングマガジン)(リブランドならYRK&)


スタイリッシュなデザイン・機能的かつ自然な使い心地・洗練された世界観…
1987年、オーストラリア・メルボルンで誕生したスキンケア/ボディケア/ヘアケアブランド『Aesop(イソップ)』。誕生から35年以上経った今も、未だ色褪せることなく、一貫したコンセプトで優れたプロダクトを生み続け、ファンを増やしています。

店頭は常に行列で、2014年から2019年にかけて全世界の店舗数は2.4倍に、20年第4四半期のオンライン販売の収益も190%増加するなど、目まぐるしく成長を続けています。

マス向けの広告は打たず、知る人ぞ知るブランドだったイソップが、なぜここまで支持されるようになったのか。愛され続けるイソップの秘密をブランディング視点で紐解きます。

キーワードは“一貫性”と“明確な判断基準”です。

Index

  1. 創業当初から変わらない“判断基準”
  2. 流行に囚われない製品開発/侘び寂びを模したパッケージ
  3. 独自のカスタマーコミュニケーションによるブランド体験
  4. 愛され続けるブランドの秘密

創業当初から変わらない“判断基準”

Aesopは1987年、オーストラリア・メルボルンでヘアサロンを経営していたデニス・パフィティスにより誕生しました。納得のいくものを妥協せず追い求めるデニスは、当時から自身で調合したシャンプーをサロンで使用し、その使い心地に魅了された顧客のオーダーにより、オリジナルの製品開発を本格的に始めるようになったそう。これを起点に、スキンケアやボディケアアイテムにまで発展していったことがイソップの始まりです。

肌の手入れを含めた人生の豊かさの追求」をビジョンに掲げ、ただスキンケア製品を売るのではなく、ブランドを通じて「生活」をより豊かにするために存在するイソップ

現在のイソップのスタイルは、ヘアサロン時代から続いているテイストを大切にしており、商品や店舗、ホームページを一目見ればイソップのものだと分かるほど「らしさ」が明確に存在しています。それは、ロゴ、フォント、パッケージ、カラーリングなどのブランドアイデンティティと呼ばれるブランドの表現部分が全くブレずに一貫性を持っているから。

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ブランディングにおいて重要なことは、この「一貫性」を持って継続的にブランド活動をすることです。「一貫性」は、明確な判断基準を社内での共通認識として持ち、ブランド活動を行うことによって蓄積され、強いブランドへと成長していくのです。

判断基準は、愛されたい人物像を設定する「ブランディングターゲット型」や、なりたいブランド像を分析し反映させていく「ベンチマーク型」などいくつかのパターンがありますが、イソップにおいては、創業者デニスの世界観と美的センスを絶対的な基準とする「リーダーシップ型」に位置します。

例えば、イソップの直営店は、世界中に200店舗以上ありますが、その土地の流儀を継承し、1つずつ異なる空間を創りあげています。デザインは異なるものの、どこもシンプルかつ洗練された「イソップらしさ」がある背景には、先述したとおり、明確な判断基準が存在しているからです。「照明の照度」「商品の並び順」までも細かく定められており、さらに創業者デニスの最終確認があって、オリジナリティあふれる店舗が誕生しているのです。

流行に囚われない製品開発/侘び寂びを模したパッケージ

オーガニックな印象が強いイソップの製品ですが、サイエンスのチカラも取り入れて作られているため、あえて「ナチュラル」や「オーガニック」という言葉は使わないというポリシーを持っています。安全性や使い心地の良さを考慮しながら、最高品質にこだわった植物由来成分と非植物由来成分を融合させることで独自の製品を作っています。

製品の原料に常にその年に収穫された植物を使用しているため、ヴィンテージワインのように年によって香りや色が異なるのも特徴のひとつ。市場動向に左右されることはなく、最上級の品質を追求し、新製品開発には最低でも2年かかるといいます。

一目見てAesopの製品だと分かる統一感のあるパッケージは、ミニマルかつシンプルな男女両方が使いやすいユニセックスなデザイン。ラベルには、成分や規定の使用法の他、Aesopが大事にする格言も記し、パッケージを通じて、不完全で使い込まれた美しさといった「侘び寂び」を伝えています。

「侘び寂び」はイソップが大切にしている要素の一つ。理想的な美ではなく、不完全でありのままの美しさを愛するということを、使うごとに形を変えていくプロダクトを通じて伝えています。

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さらに、遮光瓶のようなガラスボトルは、デザイン性の高さだけでなく、紫外線や温度変化に弱い植物成分を保護する役割も。できるだけリサイクル可能なパッケージを使用するなど地球環境に配慮した販売方法で循環する製品づくりを心掛けています。

独自のカスタマーコミュニケーションによるブランド体験

店舗はブランドの鏡と考えるイソップでは、どのお店を訪れても、常に高いクオリティーのサービスを提供しています。私も店頭によく行きますが、ハーブティーとともに、専門知識に詳しいコンサルタントが親身に相談にのってくれるので、癒されながら商品を体験することができます。マニュアル化された接客トークではなく、一人ひとりと向き合い、対話しながらもてなしてくれるのでついつい長居してしまうことも。買い物袋代わりの麻の巾着袋には、ルームスプレーを吹きかけてくれるので、帰宅後もイソップの香りを感じられるのも楽しみのひとつです。

これは、「美容用品を通してお客様にライフスタイルを提供する」という考えをもとに創られた独自の接客スタイル。店舗のBGMからはオリジナルプレイリストが流れたり、ニュースレターではおすすめの本や音楽を紹介したりするなど、ただ“製品を買う”というだけの目的ではなく、人生の豊かさや知的好奇心を掻き立てる要素に溢れている点は、イソップが掲げるビジョンにも共通しており、より「イソップらしさ」を生み出しているのではないでしょうか。

また、極力マス向けの宣伝広告を打たずに、ユーザーからオーガニックで広がる信用力を重要視しているイソップ。私自身、初めてイソップに出会ったのは約10年前、都内の5ツ星ホテルに宿泊した時でした。

当時の宿泊部長がイソップと同じくオーストラリア生まれで、イソップの高品質なプロダクトがホテルのブランドに合うと判断したことが導入のきっかけになったとか。憧れの高級ホテルでの非日常な空間の中、洗練されていながらもどこか落ち着くイソップの香りと使い心地に一瞬で虜になり、そこから長く愛用しています。5ツ星高級ホテルの他にも、ファーストクラス向けアメニティキット、商業施設などパートナーとの提携にも力を入れているので、そこで商品に触れたユーザーとの体験を通じた口コミのネットワークのおかげで、広告を打たなくとも、愛され続けているのでしょう。

愛される続けるブランドの秘密

創業から35年以上経っても世界中にファンを増やし続けているイソップの秘密は、創業者を軸とした明確な判断基準にありました。判断基準が存在していることによって、製品開発、商品や店舗まわりのデザイン、接客や梱包袋にいたるまで、全てのブランド体験がブレることなく一貫性を持って表現されるので、顧客は「イソップらしさ」を随所に感じ取ることができ、強いブランドへと成長していくことができたのです

イソップの企業ビジョンである「肌の手入れを含めた人生の豊かさの追求」においても、それを実現するために、アーティストとのコラボレーションや、アートプロジェクトの後援、ブランド哲学コンテンツを記すなど、スキンケアブランドの域を超えた活動も行っています。

似たようなブランドが増え、差別化が難しい現代ですが、競合他社との比較や流行を追い求めず、市場動向にも左右されることなく、一貫性のある判断基準のもと、ただひたすら自分たちの信じる品質とデザイン、顧客サービスを徹底しているイソップに、これからのブランドが見習うべきポイントが隠されているのかもしれません。