#スノーピークから学ぶ、愛され続けるブランドの持つ究極の「ユーザー視点」とは?


新型コロナの影響もあり、一大ブームとなった「キャンプ」。キャンプ用品の製造・販売を行っているスノーピークは、キャンパーたちから強く支持されているブランドです。そんなスノーピークが掲げているブランド精神として「徹底したユーザー視点」があり、この考えは自社の商品、サービス、ブランドと顧客を結ぶ全ての接点で体現されており、顧客満足度の向上にも寄与しています。

本コラムでは、この「徹底したユーザー視点」がどうブランドへと体現されているのかを、競争優位性を可視化し、独自のポジションを築く戦略、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」を活用して、スノーピークのビジネスモデルを分析・考察していきたいと思います。

Index

  1. VUCA時代は4Pではなく、ファイブ・ウェイ・ポジショニングを使って分析するべき理由
  2. ファイブ・ウェイ・ポジショニングを使って、スノーピークを分析したら見えてきたブランドの強み
  3. スノーピークはプロダクツ(商品)を販売しているのではなく、「キャンプ」という体験を提供するブランド

「私たちは市場調査などしない。社員である前に、キャンパーであれ。」

この言葉はスノーピークのブランドサイトに載っている言葉です。「ユーザー視点」と聞くと、市場調査などをもとにどのようなニーズや課題があるのかを分析するイメージが強いと思います。しかし、スノーピークの面白いところは、市場調査よりも自分たち自らが顧客(キャンパー)になることで、感じたことをそのまま商品開発へ活かし、欲しいものを作るというアウトプットを体現している点にあります。

創業者である山井幸雄氏をはじめ、従業員全員がユーザー視点を持つことで、一切の妥協を許さず、効果・検証を繰り返しながら自分が欲しいと思うものを生み出す精神が、企業体質に根付いているのだと思います。

VUCA時代は4Pではなく、ファイブ・ウェイ・ポジショニングを使って分析するべき理由

従来より、マーケティング・ブランド戦略の構築には、4Pや3C、STPといったフレームワークを活用することが慣例となっていました。しかし昨今は、UberやAirbnbなどのディスラプター(破壊的企業)やDtoCやサブスクリプションといった新たな商流やビジネスモデルが多数出現しており、商品の販売形態や顧客接点の在り方、そしてビジネスモデルそのものが、ここ数年で大きく変化しています。すなわち、従来型のフレームワークだけでは、今の時代に勝ち残るビジネスモデルは設計できないという事です。

そこで昨今注目されているフレームワークが、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」です。このフレームワークは、「商品」「価格」に加え、4P分析にはなかった「サービス」「アクセス」「体験価値」の5つの軸で分析を行うフレームワークです。(星野リゾートの星野佳路社長が自身のビジネスモデルをこのフレームワークでブラッシュアップされた事でより注目を浴びていますね。)

5つ全てにリソースとコストを掛けると、結果として利益率や競争優位の低下を引き起こし、長続きしない結果となってしまう。であれば、1つだけを圧倒的なレベルに引き上げることで、市場において支配的なポジションを確立することで差別優位性を創り出すという考え方です。一般的には、5つのうち1つで市場支配を、別の1つで差別化を、残り3つで業界水準を達成することが理想とされています。

スノーピークから学ぶ、愛され続けるブランドの持つ究極の「ユーザー視点」とは?

#スノーピークから学ぶ、愛され続けるブランドの持つ究極の「ユーザー視点」とは?

※図説出典:YRK&リブランディングスクール教材

ファイブ・ウェイ・ポジショニングを使って、スノーピークを分析したら見えてきたブランドの強み。

※筆者の主観と知識を交えた自主考察の為、事実と異なる場合がございます。ご了承ください。

スノーピークがファイブ・ウェイ・ポジショニングの中で、差別化と市場支配が達成できていると思われる、2つのポイントを解説していきます。

「体験価値」で、“差別化”を。

スノーピークには、顧客が商品に実際に触れる店舗や、スノーピークのDNAを感じることができる「Snow Peak MUSEUM」があります。ここでは、スノーピークを愛してくれている顧客から預かった品を展示し、顧客との過去、現在、未来のすべてに出会うことができる場として運営されています。

また、1998年からスタートし、今年で26年目を迎えるキャンプイベント「Snow Peak Way」では、顧客との直接的なコミュニケーションを大切にしています。参加者同士のデアイの場として、ワークショップやイベントコンテンツの開催といったファンミーティング的な要素は勿論、開発者が顧客と一緒に焚き火を囲み、商品に対する率直な意見を聞くなど、自社商品が実際使われているその瞬間で顧客(キャンパー)のリアルな声を収集しています。これは、究極のVOC※を実現しているといっても過言ではなく、体験価値の創出に加えて「商品」開発力を高める事にも成功しています。ファンミーティングやVOCの活用を行っている企業は他にも多くありますが、スノーピークは、開発者とユーザーがキャンプを通して交流することで、同じ目線で意見を交わすことが可能になる仕組みを30年近く継続させている点が、他社には真似できない差別優位性なのだと思います。

※VOC(Voice of customer)とは、自社商品やサービスに対する顧客の意見や感想のことで、コンタクトセンターやSNS、顧客アンケートなどで収集する形式が一般的です。

「サービス」で、“市場支配”を。

スノーピークの、ファイブ・ウェイ・ポジショニングの5つの軸の中で最も強みと思われるのが、「サービス力の高さ」であると分析しました。スノーピークのプロダクト(商品)には「保証書」がついていません。この理由は、「自社の製品の品質に責任を持つのは当然である」という企業スタンスを持ち合わせ、キャンプ用具を長く愛用してもらうことを目的に、修理・アフターメンテナンスを行っているからだそうです。また、修理を受ける際には、顧客が次にキャンプに行く日程を確認し、その日までに綺麗な状態で商品を渡すことができるようにするデリバリー体制が取られています。これはユーザーが本当に求めていることは何か、徹底的な「ユーザー視点」で考えたからこそ実現できることだと思います。

親から子どもへ引き継ぎ、長く愛用してもらう。子どもたちが大人になった頃に、思い出の詰まったスノーピークのキャンプ用具を使って、再び家族の時間を過ごしてもらう。どの時代にも家族の中にスノーピークが存在し続け、どの時代でもキャンプを楽しめること。これこそ、スノーピークの目指すブランドの在り方なんだと思います。

スノーピークから学ぶ、愛され続けるブランドの持つ究極の「ユーザー視点」とは?

このように、ファイブ・ウェイ・ポジショニングを使うことで見えてくる「サービス」「体験価値」といった軸は、従来のフレームワークでは見えてきません。そして先述したように、スノーピークのような素晴らしいブランドでも、5つの軸全てがパーフェクトというわけではありません。

自社の強みは何なのか?どこを伸ばすべきか?といったブランド戦略にお悩みの方は、ぜひファイブ・ウェイ・ポジショニングを活用してみてください。

スノーピークから学ぶ、愛され続けるブランドの持つ究極の「ユーザー視点」とは?

スノーピークはプロダクツ(商品)を販売しているのではなく、「キャンプ」という体験を提供するブランド。

筆者がファイブ・ウェイ・ポジショニングを使ってスノーピークを分析すると、「サービス」と「体験価値」に特に長けたブランドであるという事が見えてきました。これはあくまで筆者の独自視点で分析した結果なので、トレーニングもかねて気になる方はぜひご自身の頭の中でも考えてみてください。

今回見えてきた2つのポイントである「サービス」と「体験価値」は、スノーピークがプロダクツ(商品)を単に販売するブランドとしてではなく、キャンプという体験を質の高い状態で顧客に提供しているブランドである証だと思います。創業者の「ユーザー視点」を大切にする姿勢がサービスの根底にあり、商品や経験価値に体現されることで、ブランドとして成長し続けてきました。その結果として、スノーピークは多くの顧客から信頼され、支持されるブランドに成長しました。今後も、顧客のニーズを満たすブランディング施策を追求し続けることで、企業の競争力を向上させることが期待されます。

writer
井戸本 眸