ビジョンやミッションの「共感・共鳴」はPUSHではなくPULLが肝要TOPimage(リブランディングマガジン)


Index

  1. パワープレイの浸透策は厳禁
  2. 共感・共鳴しない原因は、“創る側”、“受け取る側”の「二極構造」にある
  3. 無意識に参加したくなる仕掛けづくりが重要
  4. PULLこそが、強い企業・組織への変革の秘訣

パワープレイの浸透策は厳禁

コロナショックにより、社会の前提が大きく崩れ去った今、多くの企業が自社のビジネスやブランドを再構築することを迫られており、それに伴って新たなビジョンやミッション、パーパスを定めて、組織そのものの在り方から見直す企業が増えています。具体的にいうと、正解のない世の中でめざす方向(=ビジョン)を見誤らず、自ら考え、自ら実行に移せる自律型人材・組織へと変革するというものです。

そうした中で、よく耳にするのが「新たにビジョンを定めたのはよいが、なかなか社員に浸透しない」という悩みの声です。こうした悩みを抱えた企業のほとんどが、定めた言葉を広告宣伝するように社内発信を行い、全社員に浸透させようとしています。しかし、それを受け取る社員の気持ちになって考えてみると、いくら自分が勤める企業のビジョンとはいえ、新たに定めた価値観を、社員が突然耳にしただけでは、なかなか共感・共鳴は生まれにくいはずです。特に、人材の流動性が高くなった今では、無理やりに浸透させようとすることで、押しつけ感を感じた社員は他へと流出してしまうリスクさえあり、諸刃の剣といえます。

しかし、少し視点を変えるだけで、「組織浸透、社員共感・共鳴」を一気に推進できることもあります。本コラムでは、企業が策定するビジョン・ミッションの社員共感や共鳴といった浸透施策について、紐解いて参ります。

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共感・共鳴しない原因は、“創る側”、“受け取る側”の「二極構造」にある

そもそもこうした壁にぶつかるのは、ビジョンを“創る側”と“受け取る側”の「二極構造」が生まれてしまうことにあります。ビジョンを創り上げていく過程において、経営幹部や次世代リーダーをプロジェクトメンバーとして議論を重ねて、共通認識をつくり、言語化していくわけですが、ここに決定的な落とし穴があります。プロジェクトメンバー間での議論が熟すにつれて、メンバー全員が違和感なく、共感できる言葉を熟考しすぎて、いつのタイミングからか“コトバ”づくりが目的あるいはゴールになってしまうのです。

ビジョンやミッションとして定める“コトバ”は、企業・組織のあるべき姿を明確に示し、その方向へ社員を動かすためにも、単語1つ1つを丁寧に選び、紡ぐべきであることは言うまでもありません。しかし、真の目的は前述の通り、自律型人材・組織をつくることです。そこからの逆算の一手としての新たなビジョン・ミッションの策定のはずが、この一手目に大きく力を使いすぎ、後半は発表して、社内報や掲示物で広めて、各チームのリーダーに任せようと、前半の熱量と比べると非常に低温な力の入れ具合になりがちです。

このような形で、ビジョン策定までと、それ以降で分断が生まれてしまうため、プロジェクトメンバー=創る側、プロジェクトメンバー以外の全社員=受け取る側という二極構造が無意識に生まれてしまうのです。この構造のまま“コトバ”だけが広まったとしても、元々の課題であった自律型人材・組織ではなく、上からの指令を受け入れて動く人材・組織のままで、根っこの部分は決して変革できたとはいえません。

無意識に参加したくなる仕掛けづくりが重要

逆に自律型の組織として機能している企業・ブランドを考えてみると、有名な例ではありますが、ディズニーのキャスト。キャストとは、夢の国として運営されるディズニーランドを支える職員の名称ですが、彼らはまさにゲスト(=お客様)にハピネスを提供するという目標のために、「SCSE」(S=Safety【安全】、C=Courtesy【礼儀正しさ】、S=Show【ショー】、E=Efficiency【効率性】)と呼ばれる行動規範に沿って、その時々のシーンにおいて“どうすれば目の前のゲストにハピネスを届けられるか”を自ら考えて行動しています。彼らのように自発的に生まれる行動は、行動指針を創った側と受け取る側の二極構造ではおそらくできません。夢の国の一員として自らの意志で参加しているため、ビジョンが自分事化されており、今日行う業務とも接続ができているわけです。

つまり、極端な成功例ではありますが、ビジョンは伝えて浸透させるものではなく、ビジョンを中心にした取り組みに「社員をどうやって集めるか?」が重要です。このキャストのように「夢の国で“役者”をやってみない?」と、社員を集めるとどうでしょうか?「やってやろう!」と、ビジョンに共感・共鳴し、自ら手を挙げる人がたくさん出てきてもおかしくないと思いませんか?このディズニーの事例以外にも、メーカー、サービス業、BtoC、BtoB問わず様々な企業で、うまくビジョンを中心に社員を巻き込んで自律型人材・組織へと変革させた例はあります。

社員を巻き込む企画として、「ビジョン体現に向けて素晴らしい活動をした人・チームの表彰制度」「リブランドを体現する新商品アイデアコンテスト」「変革を機に自らの手でオフィスをリニューアル」など多種多様な取り組み事例を耳にしますが、これ以外にもきっと自社の風土にマッチしたやり方は無限にあるはずです。こうした活動を企画する際のポイントは、一過性のイベントよりも(ローンチ時には大切ですが)、オフィスや制服・ユニフォームのように目に見えて毎日使用するものを刷新したり、日常的な制度や毎年の行事として仕組み化できるものであればあるほど、ビジョン実現に向けた取り組みが社内で無意識に浸透・定着し、共感・共鳴が生まれる環境を創ることが可能です

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PULLこそが、強い企業・組織への変革の秘訣

自律型人材・組織への変革のために、ビジョンやミッションを策定するということは非常に有効な手段である一方で、プロセスにおいて留意すべきは、「創る側」「受け取る側」の二極構造をいかにして作らないようにするか、が非常に重要です。

そのために行うべきこととして、2つのポイントをご紹介します。

①ビジョン・ミッションを創るフェーズ

ワークショップ、インタビュー、アンケートなどにより、社員の声を的確に吸い上げると同時に、自分たちの会社が変わっていくことへの興味と期待を並行して作ること。密室の会議で決められたものにしないためにも、できる限りオープンなプロセスが目的達成のためには重要です。

②ビジョン・ミッションを共感・共鳴させるフェーズ

言うまでもなく社内リリースはリアルで、視覚的インパクトが重要ですが、浸透においては、何らかのアクションに社員が興味をもって参加できるようにすること。最初はビジョンへの理解が低くても活動に参加しているうちにビジョンとアクションそして普段の業務が紐づき、本当の意味での浸透、共感・共鳴が図れます。

世の中も、広告・プロモーションによって売り切るビジネスから、ブランディングによって愛され繋がり続けるビジネスへとシフトしていますが、社内へのビジョン浸透、共感・共鳴においても全く同様にPUSHして理解を求めるやり方から、PULLによって共感をつくるやり方へとシフトさせ、インナーブランディングを加速させる時代になってきたといえます。労働人口が減少していく未来に向けて、PULLによる求心力で自律型組織を少しでも早く構築しておく必要があるのではないでしょうか。

最後に。

イベントレポート_メルマガ用_button(ブランドグロースミーティング)(リブランドならYRK&)(クラブハリエ)

3月14日(火)に実施した本イベントは、「Starbucks」「SABON」「たねや/クラブハリエ」「ハーゲンダッツ」「ピエール・マルコリーニ」といった有名一流ブランドを世に送り出した実業家、経営者をお招きし、トークセッション&懇親会をYRK&大阪本社会場にて開催いたしました。

キーワードは、
『共感』・『共鳴』の経営

ブランディング経営を学ぶ今回のイベントへは、100名を超えるご応募をいただき、ご当選された約64名の経営者様・事業責任者様にご参加いただきました。 

本セミナーを見逃されてしまった方へ、後日アーカイブ配信を予定しておりますので、弊社HP内で、改めてご案内させていただきます。ぜひご期待ください。


木村昌紘_コンサルタントフォト(リブランドならYRK&)(インナーブランディング)



株式会社YRK and
ブランドクリエイティブユニット 東阪統括
シニアブランディングストラテジスト
木村 昌紘
Writer

株式会社YRK and
ブランドクリエイティブユニット 東阪統括
シニアブランディングストラテジスト

木村 昌紘

ブランドプランニングセクションのストラテジスト。医薬品、教育という特殊な分野のプランニングにも精通し、あらゆる業態のブランド戦略を構築することができる異色のストラテジスト。ワークショップやブレインキャンプを活用することで、共創型でのプロジェクトからブランドストラテジーを構築し、企業の本質的な問題点に向き合います。YRK&のクリエイティブ、プロデュース、デジタル、メディアプランニングの機能活用はもちろん、あらゆる外部ネットワークをフル活用することで、最速でクライアントを目的に導くことができます。また、クリエイティブディレクション経験も持ち合わせているため、右脳的な感性と左脳的な論理を絶妙にマッチングさせた新しいコミュニケーションをつくります。