2024.06.21
原材料高騰、テクノロジーの進化といった経済の環境変化が目まぐるしい昨今、商品・サービスの価値を見直して独自の付加価値を付与することで業績を回復させたり、企業ビジョン・ミッションを再定義し従業員の求心力を高めて強い組織を形成させたりと、経営戦略上「リブランディング」を選択する企業が増えてきています。
本記事では、リブランディング支援の専門コンサルティング会社であるYRK&が、リブランディングを推進させたい企業の方向けに、リブランディングの目的や種類、事例等をポイントをまとめて解説します。
Index
リブランディング(Re-branding)とは、「再び」の意味を含めたブランド戦略であり、自社の商品やサービスといったプロダクトや、企業そのものの価値や存在意義(パーパス)を再検討・再定義・再構築するために行う取り組みです。
ロゴやパッケージ、タグラインといった表層的なデザイン領域のリニューアルだけではなく、"ブランドの価値を抜本的に見直す"といった意味があり、プロダクトを利用する顧客(生活者)側だけでなく、プロダクトを提供する側の会社の従業員や求職者、株主といった全てのステークホルダーに対して、ブランドにおける提供価値の認識を改めてもらい、事業そのものを持続的に成長させることを目指します。
リブランディングの目的や達成すべき目標は企業にとって様々ですが、ここでは「商品・サービスを売る」といった“マーケティング戦略上必要なリブランディング”と、「企業理念・経営理念の社内外の浸透」といった“経営戦略上必要なリブランディング”の2つの視点で解説いたします。
「愛され続ける商品・サービスに生まれ変わるため」
人口減少やZ世代の台頭、めざましい技術革新など、市場環境の変化スピードが速くなる中、生活者が求める価値も同様に変化します。こうした変化に応じて、商品やサービスの価値を生活者視点で磨き直すリブランディングは有効な手段だと言えます。広告やプロモーションのように購入までをゴールとするのではなく、ファンに愛される価値を提供し続けるリブランディング活動こそがLTVの最大化につながるのです。
「企業の存在意義を見直し、長期的な事業成長と競争優位性を創り出すため」
VUCAと言われる時代、企業の存在意義を見直し、中長期視点で実現したい未来を描き、企業理念や企業MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)として指針を言語化することが非常に重要です。対外的なブランドイメージの発信だけではなく、社内への浸透により、目的をもってゴールに向かって自律・自走できる人材をどう創るのかが、まさに人的資本経営にとっての至上命題だと言えます。その意味で、リブランディングが注目されています。
リブランディングは、企業にとっての今後の事業成長を大きく左右する施策といっても過言ではありません。そして、企業がリブランディングを実施するタイミング、きっかけを見極めることは非常に重要な経営判断となります。リブランディングの必要性を感じていなくても、実際はリブランディングを実施することで飛躍的に事業を成長させることが可能です。ここでは、どのような経営課題やタイミングでリブランディングを実施すると効果的か?様々なケースを紹介いたします。
リブランディングは、理想の愛用者像を定め、商品・サービスのコアとなる価値を抽出して磨き直すため、現状のマーケティング4Pに縛られないあるべき姿からのバックキャスティングで戦略を再構築できます。独自性や差別優位性を強化することで、コモディティ化により飽和した市場環境で劣化した既存商品・サービスのブランド価値を向上させ、市場での競争力を高めるメリットがあります。
複雑化した業務フローの最適化、抜本的な改革にもリブランディングは有効です。小手先のDXや仕組化、ツール導入ではなく、根っこにあたる企業の目指す姿を可視化し、その姿の実現に向けての組織再編と役割定義を行った上で、目的に沿った部署関連携の仕組みや業務改革を図ることもリブランディングの役目です
事業変革は、その目的と目指すゴールを明確にする必要があります。そのために、リブランディングによって、自社ならではの強みを洗い出し、提供価値を磨き上げ、MVVとして言語化することが最初の一歩になります。MVV再定義後は、社員一人一人が自分事化する機会を設けたり、評価制度を改訂するなどし、従業員に行動変更させる仕組みをつくることで、変革を推進します。
組織のコンセプトを明確にし、従業員のエンゲージメント向上や組織力強化を促すためには、リブランディングが効果的です。新しいMVVや企業理念を通じて、従業員に誇りや共感醸成を図り、協力意識を高めます。共通の目標や価値観を明確にすることで、チームとしての一体感や効率性が向上するだけではなく、昨今の激しい外的環境の変化に対して柔軟に対応できる組織力が備わります。
凝り固まった思考を解消し、新規事業が生まれやすい組織風土を作るために、目指す姿や自社が大切にする価値観・行動指針を明確にし、従業員に柔軟性や創造性を促す環境を整備します。これらが浸透すると、組織を超えた新たなアイデア創造や取り組みが生まれ、イノベーションが生まれやすい組織風土が醸成されます。まさにリブランディングによる存在価値の再定義が組織風土の礎です。
エンゲージメントの高い人材や、組織カルチャーにフィットする人材の育成の前に、自社の存在意義と目指す姿をMVVで可視化し、求める人材像を明確に定義し直さなければなりません。求める人材像が明確になると人材育成はもとより、採用においてもカルチャーフィットしやすい人材の獲得が行いやすくなります。人口減少で人材獲得がより困難になる中で、リブランディングによる人材戦略の策定はより重要視されています。
経営者の交代や事業承継のタイミングにおいては、ステークホルダーの信頼や評価を高めるために、リブランディングによって明確なブランド戦略を打ち出し、企業価値を向上させる必要があります。また後を継ぐ経営者のビジョンや戦略、リーダシップは従業員の求心力にも大きな影響を及ぼすため、継承すべきことと変革すべきことを見極めて、共感できるストーリーとともに具体的な計画を示すことが大切だと言えます。
企業にとっての周年は、あらためて過去を振り返り、これからの未来の展望を示すために節目となる特別な機会だといえます。対外的な企業PRによって、既存顧客との関係性の強化だけではなく新たなファンづくりを図ると同時に、従業員にとっても自社と向き合う良い機会となるため、結束力の強化やエンゲージメントの向上につながる絶好のリブランディングの機会であることがわかります。
社名変更は社内外に企業が目指す方向性を最大のインパクトをもって発信する手段だといえます。ただ社名を変えるだけではなく、リブランディングによって、市場環境に応じた提供価値の磨き直しや事業ドメインの再定義を図り、新たな市場の開拓や、従業員のエンゲージメント向上、新たな人材の獲得など戦略的に事業変換を図る良い機会です。
M&A後のPMI(Post-Merger Integration)では、リブランディングによって統合後の新しい組織の目指す姿や大切にすべき価値観を明確にし、単なる統合ではなくグループシナジーが生まれやすい組織を創ります。また対外的には、旧来のブランドイメージをポジティブに進化させた新たなイメージを発信し、新たな市場開拓や市場競争力の強化にも寄与します。
IPOに向けて、リブランディングによる新しいブランド戦略やビジョンを掲げ、市場や投資家に対して企業の成長潜在能力を感じさせ、事業への共感を醸成し、企業価値を高めることが重要です。株主価値を高めるためには、サステナブルな取り組みなど具体的なアクションを開示することも重要であり、明確な指針と共に具体的なアクション計画が求められます。
リブランディングによって、新しいブランドイメージやビジョンを確立し、市場や潜在的な買い手に企業の魅力や競争力をアピールすることが必要です。企業のポジショニングや差別化が明確化され、経営戦略や業績面に変化をもたらす取り組みを施すことで、事業の成長性や将来性を強調し、買い手に魅力的なビジネス機会を提供することで、売却時の評価額の向上につながることも期待できます。
リブランディングの種類は「企業」軸と「プロダクト」軸の2つの視点に分かれ、各専門領域によってプロジェクトの進め方や、アサインする社内部署メンバーも大きく異なってきます。ここでは、YRK&のリブランドコンサルティングメソッドを元にして、リブランディング施策の種類を紹介いたします。
企業の存在意義を再定義し、ミッション・ビジョン・バリューを再構築することで顧客(生活者)側だけでなく、プロダクトを提供する側の会社の従業員や求職者、株主といった全てのステークホルダーに対して浸透させることで、長期的な事業成長と競争優位性を創り出すことを目的としたブランディング施策です。
経年による競合の台頭、機能や性能のコモディティ化、コミュニケーションの複雑化やデジタル対策への遅れなど、あらゆる要因で生活者から劣化して見えてしまっている商品・サービスに対して、存在意義や方向性、コンセプトを再定義することで、時代に沿った新たな価値を創り上げるブランディング施策です。
広告宣伝やPR・プロモーションといった、商品やサービスを「売り込むための"狭義"のマーケティング戦略」と混同されやすい領域ですが、プロダクト軸のリブランディングは、商品の社会的存在価値は何なのかを明確に再定義し、その価値を継続的に浸透させ、顧客に愛されるための活動の事を指します。
ロゴやパッケージ、タグラインといった表層的なデザイン領域のリニューアルだけではなく、
ブランドの価値を抜本的に見直す事で逆風を乗り越え、事業を成長に導いた企業、もしくはプロダクトの事例を紹介いたします。
MVVCが全社にうまく浸透し“共感”によって事業を革新し続けているマネーフォワード。ミッション「お金を前へ。人生をもっと前へ。」を掲げ、企業文化を醸成するための専任チームが、経営・社員を巻き込み日々浸透活動を行っています。MVVなどの理念を策定して終わってしまう企業のほうが多い中で、社員全員でオフィスデザインを協働したり、アワード制度でミッションを体現した取り組みを表彰するなどの取り組みに加え、社内外への積極的な発信も継続されており、ミッションドリブンな経営は着実に事業成果に結びついています。
コモディティ化が進み、厳しい価格競争が繰り広げられるポテトチップス市場において、リブランディングを敢行。ポテトチップスの老舗としての原点に立ち返り、これまでのコアバリュー「親しみ」「安心」「楽しさ」に、消費者の価値観変化を捉えた「本格」「健康」「社会貢献」を加えた新たなコアバリューを策定し、ロゴマークの刷新、ブランド哲学をまとめたブランドブック、さらには社屋エントランスのリニューアルまで行い、徹底したインナーブランディングを図ります。そして、一品に想いをこめてつくるというブランドの考えを形にしたフラッグシップ商品「KOIKEYA PRIDE POTATO」を発売。これを皮切りに製造工程を見直し、既存商品・新商品などブランドを体現する商品で市場で独自のポジションを築くようになりました。まさに企業ブランディングから、既存事業の競争力強化に直結する成功事例といえます。
通販事業からスタートし、店舗事業へと事業拡大していましたが、キャンペーンによるアップセル・クロスセルといった通販のマーケティング手法を主体としていたため、コモディティ化が進む市場でブランド価値が不明瞭になり、事業の成長も停滞します。こうした中でリブランディングを行い、事業の原点の考え方であった“肌本来の機能を取り戻す”という価値を、「スマートエイジング」というコアバリューとして定め、主力商品シリーズからプロダクト改革を段階的に実行。さらに、通販と店舗に分かれていた組織を、カスタマージャーニーに沿って再編し、顧客との最適な体験やコミュニケーションの場を構築し、再びファンの支持を得るブランドへと再成長しています。
コモディティ化による価格競争に加え、若年層の嗜好性の変化など、市場環境への対応が迫られる中、新商品投入や広告イメージの刷新など、各社とも様々な手を打っていた状況で、キーコーヒーは主力商品シリーズでリブランディング。ブランディングターゲットを再設定し、忙しく多様化する現代人の一人時間の価値に着眼したコンセプトの「KEY DOORS+」へと既存ブランドを昇華させ、商品展開を再整理しました。プロモーションにおいては、トラック試飲イベントなどのブランド体験型のコミュニケーションを軸に、一過性の広告に頼らない継続的なアクティベーションにより、市場で再注目を集める存在になりました。
※より詳細な事例紹介はこちらから
リブランディングを推進するが、事業にインパクトを残せず失敗するケースは非常に多く、その理由は様々です。本記事では、失敗に至る原因と注意事項を解説いたします。
上手くいかない企業リブランディングとして、変革を意図して新たにMVVを策定したものの、事業内容や従業員の意識や行動が変わらないという話はよく耳にします。こうしたケースの原因としては、経営者のブランディングへの理解不足が考えられます。企業のリーダーが変革を引っ張る本気の姿勢と判断こそ、従業員にとって最も変革の必要性を実感するものです。プロジェクトをスタートする時点で、経営者がリブランディングの重要性を誰よりも理解し、それをやり切る想いがないと、美しい言葉でMVVを言語化するだけにとどまってしまう恐れがあります。
リブランディングを行ったが、どのような効果があらわれるのか、また実際に効果が出たと言えるのか不明確だというお話をよく聞きます。プロジェクトをスタートする時点で、リブランディングの目的を明確にすると同時に、現状を丁寧に見つめ直すことを行い、何をどのレベルまで引き上げたいか事前に目標想定をもっておくことが重要です。新事業の立ち上げ、エンゲージメント向上、離職率の抑制、企業認知度の向上、採用力の強化…企業によって重視するポイントは様々だと思いますが、どこに重点を置いてブレずに実行するかをきちんと事前設計しておくことが大事です。
リブランディングを行う上で重要なポイントは、理想のファン像を解像度高く描き、プロジェクトにける全ての判断基準とすることです。しかし、この理想のファン像の解像度が低かったり、全ての人をターゲットにしたいという意図で絞り込まなかったりすると、結果的に誰にも嫌われないが、誰からも特別な価値を感じてもらえないブランドになってしまいます。セールスの対象となるターゲットと、ブランドづくりの判断基準になる理想のファン像を分けて考えることでこうした失敗は防げます。
ブランドの現状を根本的に変革するためにリブランディングを行ったはずなのに、結果として、生活者から見た際に以前のブランドと大きく変わらないというケースがよくあります。こうしたケースの原因として、フォアキャスティング思考の議論でブランドづくりを行っていることが考えられます。今自分の部署だけでできることを基準に考えたり、部署のポジショントークで判断していくと、多くの場合、他からの批判がないように大きく変えない無難な方向で着地してしまいます。こうしたことを避けるために、バックキャスティング思考で議論を行うことが大切です。前述のように理想のファン像を描くことで「ありたい姿を定めること」と「顧客視点で議論する」ことをきちんと行うことで、企業都合での“無難な”リブランディングは防げます。
リブランディングは、企業または対象となるプロダクト(商品やサービス)の「価値」を再定義、再構築することです。ロゴやパッケージ、タグラインといったデザイン領域のリニューアルは勿論のこと、時代や市場の変化、生活者の価値観に合わせてブランドの「提供価値の見直し」を図ることで、一過性の業績UPではなく持続可能な事業成長を描くことが可能です。
そして、リブランディングプロジェクトにおいて最も重要なことは、ブランドを世の中に広める(提供する)企業側自身がブランドの提供価値やストーリーを改めて認識し合い、自信や誇り、やりがいを持ってそのブランドと向き合う姿勢と環境を用意することにあります。
そのためには、リブランディングにおけるアウトプット(ロゴ、パッケージといったデザイン領域)以上に、プロジェクトそのものの「プロセス(過程)」が重要になってくることを忘れてはいけません。
リブランディングプロジェクト自体をどうデザインするか?プロジェクトメンバーのチームビルディングはどのように推進させるか?といったプロジェクトリーダーのアサインやファシリテーションスキルを持った人材を起用することが、リブランディングを成功させる上で必要不可欠と言えるでしょう。
ブランディングプロジェクトの進め方、スキームの詳細についてはこちらの資料を御覧ください。
YRK&では、企業のリブランディングやプロダクト(商品・サービス)リブランディングにおける、プロジェクト全体の戦略立案、プロジェクトメンバーを巻き込んだワークショップ企画とファシリテーション進行、デザインアウトプット、社内外への浸透施策までを一貫してご支援が可能です。
「リブランディングプロジェクトの進め方がわからない」といった場合は、是非一度YRK&へお気軽にお声がけください。
Writer
ReBRANDING magazine 編集部