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#10 国内有望スタートアップ経営者が評価するイノベーティブ大企業の共通点

国内有望スタートアップ
経営者が評価する
イノベーティブ大企業の共通点

今回は、株式会社プロジェクトニッポンが2019年5月15日〜31日に、国内有望スタートアップ経営者を対象に実施した「イノベーティブ大企業ランキング2019」を基に、2018年度から1年間の伸び率から見た、時代とともに変化を続けている企業をご紹介します。

日本のリーディングカンパニーの“決意”が見えたCES 2020。

2020年のCES(Consumer Electronics Show)では、SONYが高度な自動運転社会の実現に向け、新たな感動体験をもたらすモビリティを世界に提示し、自動車分野における存在感を強める動きが見られました。また、トヨタも人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクトを発表。モビリティカンパニーが街を1つ作ろうと思った理由は、「ここから先、トヨタが未来も必要とされる会社になっていくためには、このWoven Cityをベースに新しいモビリティ会社に変革することが必要ではないかと考えた」と豊田社長は語っておられました。

トヨタが未来を創造していくために必要なプラットフォーム、それがこのWoven Cityなのだろうと思います。

昨今では、宿泊・民泊サービスの「Airbnb」の登場による宿泊サービスの変革、自動車配車アプリ「Uber」によるタクシー業界の変革など、テクノロジーを使ってこれまでのビジネスモデルを変革する企業が多数生まれてきています。今まで競合として捉えていなかったディスラプターの襲来により、自分たちの事業領域の市場構造そのものが変化することが当たり前の時代です。

こうした変化の激しい時代において、企業に求められることは何なのか?

イノベーティブ大企業ランキングを基に、変化の激しい時代においても成長し続けるために必要なファクターを分析していきたいと思います。

イノベーティブ大企業ランキング
「伸び率が高まっている企業(2018年–2019年伸び率)」

企業名 前回順位 今回順位 伸び率
前田建設工業 119 29 90
NEC(日本電気) 80 23 57
武田製薬工業 80 27 53
伊藤忠商事 57 19 38
JR東日本(東日本旅客鉄道) 36 7 29
ホンダ(本田技研工業) 36 20 16
富士フィルム 29 17 12
大和ハウス工業 23 13 10
三井化学 36 28 8
三井不動産 23 16 7
パナソニック 12 6 6
デンソー 12 10 2
ソフトバンク 3 2 1
NTTドコモ 5 4 1
東急電鉄(東京急行電鉄) 9 8 1
ソニー 10 9 1
大日本印刷 19 18 1
日立製作所 23 22 1
KDDI 1 1 0
トヨタ自動車 2 3 -1
富士通 4 5 -1
リコー 29 30 -1
三菱UFJ銀行 10 12 -2
凸版印刷 12 15 -3
TIS 23 26 -3
オムロン 7 11 -4
NTTデータ 6 14 -8
みずほ銀行 16 24 -8
リクルート 8 25 -17
NTT(西日本電信電話) 21

引用元:ILS公式サイト「オープンイノベーション版 人気企業ランキング 2019

上記は株式会社プロジェクトニッポン「イノベーティブ大企業ランキング2019」を基に、YRK&が独自で編集/加工したランキングです。

【伸び率算出方法について】
株式会社プロジェクトニッポン「イノベーティブ大企業ランキング2019」の上位30位を対象に、前年度ランキング(2018年)と今年度ランキング(2019年)を比較して算出。

※イノベーティブ大企業とは、過去3年間に開催されたILS(2016–2018)において、国内外の主力VC(ベンチャーキャピタル)等、約100機関で構成されるILSアドバイザーリボードの推薦を受けて、ILSのメインイベントである大企業とスタートアップの新事業協業マッチングプログラム「パワーマッチング」に参加した国内有望スタートアップ全998社の経営者に実施した調査データを元に算出しています。

伸び率上位の企業には、確固たる“決意”がある

【1位】前田建設工業株式会社(2019年29位/2018年119位)

新事業の創出と次世代人材の育成に投資。パートナーとともに社会課題の解決に取り組む。

「前田建設工業株式会社」は、2019年1月に100周年を迎える総合建設企業です。100周年を機に、既存の建設業からさらなる事業拡張を狙い、世の中の基盤づくりを担う「総合インフラサービス企業(脱請負事業)」を目指すことを表明しました。次の100年を見据え「ICI総合センター」を新設。オープンイノベーションの思想のもと、多様なパートナーとの協創により革新的技術の研究・開発や新ビジネスの実現を目指す場「ICIラボ」と、新たな価値創造に寄与する人材育成と交流の場「ICI人材開発センター」の2つの主要施設で構成されています。

「ICI総合センター」という日本初の総合イノベーションプラットフォームを通して、様々なパートナーとともに社会課題の解決に取り組み、新事業の創出と新たな人材の成長を促進している試みが、スタートアップ経営者に評価されているのではないでしょうか。

大企業であればあるほど今までの成功体験に引きずられ、新しい活動や新たな挑戦に一歩踏み出すにはパワーがかかります。そんな中で、脱請負事業を掲げ、次の100年を見据えて未来を切り拓く新たな活動は日本社会にとっても活力を生むものになるでしょう。

【2位】NEC日本電気株式会社(2019年23位/2018年80位)

社会規模でのイノベーションを生み出すキーワードは「協奏・共創」。

続いて2位の「NEC」は、1899年から約120年間、ICT業界のリーダーとして活躍してきた電機メーカーです。少し前にはなりますが、2015年にNECの「社会ソリューション事業」をステークホルダーに深く理解してもらう目的で、企業ブランドメッセージを「Orchestrating a brighter world」に変更しています。このメッセージは、同社プレスリリースによると、NECの先進のICT技術や知見をもって、世界中の人々と協奏、新たな価値を共創する姿勢を現しており、これを通じて、豊かで明るい暮らし・社会・未来を創り上げていくという思いを表したものと記しています。

目標実現に向け、NEC未来創造会議(2050年を見据えて、国内外の有識者が集い、今後の技術の発展を踏まえながら「実現すべき未来像」と「解決すべき課題」、そして「その解決方法」を構想)の始動、SDGsの達成と貢献を視野に、ESG視点の経営優先テーマである「マテリアリティ」の特定、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同表明など、積極的な行動を起こしています。

自社のみならずNECグループが一丸となって「社会ソリューション事業」を推進している姿勢がウゴキから伝わってきます。オーケストラが音楽を奏でるように、顧客や社会と価値を協奏・共創し、社会規模のイノベーションを生み出すことで、さらなる事業の加速と大きな成果を生み出すことになるのではないかと期待が高まります。

【3位】武田薬品工業株式会社(2019年27位/2018年80位)

「誰も置き去りにしない」ために。希少疾患・特殊疾患への開発投資が企業価値を高める。

「武田薬品工業株式会社」は、売上高国内首位のグローバル製薬会社です。「グローバルに展開する日本発の研究開発型バイオ医薬品のリーディングカンパニー」を目指し、実現に向けた一歩として、2019年1月に希少疾患や特殊疾患に強みを持つアイルランドの大手製薬会社シャイアー社を買収、重点疾患領域への注力、社内及び外部パートナーシップを通じたパイプラインの進化など、グローバル展開に踏み出しました。

希少疾患や特殊疾患は未開発の分野であり、医療ニーズは限られていましたが、一部の患者からのニーズは非常に強く、可能性が多くある分野でした。シャイアー社買収によって、未だ有効な治療法のない新薬を生み出す研究開発体制の強化を行い、医療業界に新たなイノベーションを生み出そうと活動しています。

武田薬品工業のように、短期的な利益を目指すだけでなく、社会にとって価値のある開発を行うことは結果的に企業価値を高め、中・長期的な利益につながっていくと思います。

SDGsによってビジネスのルールが大きく変わった今、企業の在り方も変化していくと考えられます。短期的な利益の追求のみならず、SDGsが掲げる「誰も置き去りにしない(no one will be left behind)」世界の実現に向けた取り組みが求められています。

近江商人の経営理念「三方よし(自分よし、相手よし、世間よし)」が経営の指針

伸び率の上位にランキングする企業を分析すると、「経済価値」と「社会価値」の同時実現を目指している姿が見えてきました。その経営の指針が、日本の未来を担うスタートアップ経営者から評価されたのではないでしょうか。

これからの時代は、自社の価値を見つめ直し、常に社会課題を見据えたイノベーションを起こす姿勢が大切です。事業も変革を続けなければ生き残ってはいけません。

ディスラプターの襲来による市場構造の変革を予測することは誰にもできません。未来は予測するのではなく、自ら創造するもの。変化や挑戦を恐れずに、一歩を踏み出す勇気が自社を、そして日本、世界を変える行動になることを願っています。