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#8 「働く意味」の再定義による共感を創らなければ、企業は淘汰される時代に。

「働く意味」の再定義による
共感を創らなければ、
企業は淘汰される時代に。

今回は、Great Place to Work® Institute Japanの2019年版 日本における「働きがいのある会社ランキング」をもとに、変化の激しい現代で生き残るために日本企業に求められる従業員の働く意味と企業との関係性について探りました。

2019年4月に施行され本格的に始動した働き方改革法案、記憶に新しいトヨタ自動車の豊田章男社長の終身雇用制度見直しの発言、コワーキングスペースの登場によるリモートワークなどの新たな働き方、グローバル人材の増加、ミレニアル世代の仕事への新たな価値観など、これまで常識とされてきた日本企業を取り巻く働く環境は著しく変化しています。そうした激変の時代において、企業のブランド価値を高め持続可能な成長を描いていくためには、「従業員の働く意味」を定義することが重要になってきます。

従業員の働く意味を定義できない企業は淘汰される時代となっています。

それは、従業員の一挙手一投足が企業のブランド価値を高める最重要ファクターであるからです。直面する業績のためだけに働くことでは、モチベーションは上がらないばかりか、外部環境の変化に弱い企業になってしまいます。働く意味を明確化することで、従業員の能動性や自主性が高まりチャレンジする風土が生まれ、イノベーションが起きやすい企業体質になります。企業体質が変化することで、どんな環境変化にも左右されない企業の軸が生まれ、既存事業の成長や新事業の立ち上げなどインナーシナジーが創出されやすくなり、持続可能な成長の未来を描ける企業ブランドになります。

そこで、Great Place to Work® Institute Japanの2019年版 日本における「働きがいのある会社ランキング」をもとに、激動の現代に「従業員の働く意味」を明確化し、働き手から選ばれる企業の成功の秘訣を探っていきます。今回は、悩みを抱える日本の中小企業に向けて中規模・小規模ランキングに絞って考察しています。

中規模部門(従業員100-999人)

順位 ブランド名
1 コンカー
2 サイボウズ
3 バリューマネジメント
4 freee
5 武蔵コーポレーション
6 FCE Holdings
7 CKサンエツ
8 アドビ システムズ
9 グロービス
10 ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ

小規模部門(従業員25-99人)

順位 ブランド名
1 アトラエ
2 and factory
3 GRIT
4 イグニション・ポイントグループ
5 iYell
6 gcストーリー
7 マルケト
8 リスティングプラス
9 スタメン
10 ジェムスクール

引用元:Great Place to Work® Institute Japanの2019年版 日本における「働きがいのある会社ランキング

【中規模ランキング】
(100名〜999人)

1 コンカー

コンカーは、全世界で5200万人以上が利用し、約8兆円の経費を処理している「出張・経費管理クラウドベンダー」コンカー・テクノロジーズの日本法人です。コンカーが今回、働きがいのある会社1位に選ばれたポイントが、社員全員で「高め合う文化」という目標を持って実現に向かい行動できているからです。「高め合う文化」とは、お互いに建設的なフィードバックをし合い、強みを伸ばし合うことが、当たり前のようにできる企業文化のことです。こうした企業文化が浸透していることで、企業の未来という共通の目標に向かって従業員が自発的に互いを高め合いながら仕事に取り組むことができています。企業から与えられるのではなく、従業員同士で「働く意味」を考え行動しています。

2 サイボウズ

クラウドベースのグループウェアや業務改善サービスを軸に、社会のチームワーク向上を支援しているソフトウェア開発会社。サイボウズは、「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念の達成に向かって各従業員が最大限に仕事に取り組めるように、新・働き方宣言制度を開始しています。100人いれば、100通りの人事制度を追求することで、各個人の考えを尊重しながらも企業の理念達成に向かえる環境を整えることで「従業員の働く意味」が明確化できています。

【小規模ランキング】
(25~99人)

1 アトラエ

求人メディア「Green」やビジネスマッチングアプリ「yenta」、組織改善プラットフォーム「wevox」の企画・開発・運営などを行っているインターネットサービス企業。
アトラエでは、ATPF(アトラエ的プレミアムフライデー)を導入しています。ATPFは、アトラエが目指す事業や目指すための理想の組織についてなど「従業員の働く意味」を従業員全員で語り合う取り組みです。定期的に夕方から業務を止めて全従業員が集まり、自由にディスカッションを行うことで日常関わらない従業員との会話も生まれ、新たな発見があったりと、全従業員の連帯感が生まれています。

2 and factory

スマートフォンアプリ事業やIoTプラットフォーム事業など幅広い事業を展開するスマートフォン・アイデアカンパニー。and factoryは、企業のミッションである「人々の生活を豊かにするサービスを提供すること」を遂行するために、コミュニケーションが生まれるように必要以上のパーテーションを設けずオープンで開放感の溢れるワーキングスペースをデザインしています。何かあれば経営陣とすぐ会話ができる環境になっており、企業の目指す未来を理解しながら日々の仕事に取り組めています。経営陣と従業員の距離感を縮めることで「従業員の働く意味」を明確化しています。

こうした、「従業員の働く意味」を明確化し、働きがいがあるとされている企業を見ていると、目指す未来をビジブル(可視化)にしながらも、且つ従業員全員で共有や理解促進ができる仕組みを設けていることがわかります。

「従業員の働く意味」には、“ビジブル(可視化)な企業の未来”と“対話での共有理解”が必要です。日本独特の文化が日本企業の成長を阻害している要因でもあります。

しかし、「従業員の働く意味」を明確化できておらず、悩みを抱える日本企業が数多く存在するのも実情です。その理由には日本の歴史と文化が大きく関係しています。日本はこの200年ほどで見れば、明治維新や高度経済成長など世界でも類を見ないほどの成長を遂げてきた国です。その当時の日本は、明治維新「富国強兵」や高度経済成長「経済復興」など明確な未来のビジョンを描くことで日本の各企業や従業員の働く意味が明確になり、日本をここまでの経済大国にまで押し上げました。しかし、この成長には落とし穴があります。それは、この二つのビジョンは受動的に生まれたものであるということです。富国強兵は諸外国からの圧力に打ち勝つために生まれたもので、経済復興は第二次世界大戦敗戦の結果から生まれたものです。日本は、自らの想いや意志、なりたい姿などの能動性・主体性から描いたビジョンをカタチにしていった経験が少ないのです。

また、日本語は諸外国と比較してハイコンテクストで曖昧な言語と言われています。日本語は話者の立場や状況、感情が言葉の構成もとになっているので、言い回し一つで同じ意味であるのに優しく聞こえたり、厳しく聞こえたりなど全く印象の違う言葉になります。表情豊かな言語である一方で曖昧な言語という特徴によって、物事を共有する際にも受け手の認識に差が出ることがよくあります。意図とは違う意味合いで相手に言葉が伝わった経験が皆さんにもあると思います。

こうした日本の歴史や文化、慣習は、企業が描くべき「従業員の働く意味」を明確化することにおいては、時々弱点になることがあります。

日本企業は今、企業の命運を左右する時代の岐路に立っています。

2020年、日本は転換期を迎えると言われています。これからの激動の世の中を生き残る強い企業となっていくためには今、取り組まなければいけません。これまでの日本の常識の延長線上ではなく、何のために企業は存在するのかという本質に一度立ち返り、主体性から生まれる企業のビジョンを描いた上で「従業員の働く意味」を対話の中で確立していくことが重要です。

世の中をリードする企業は、“SDGsブランディング”や“パーパスブランディング”など、より先の未来を見据えた概念も取り入れてすでに動き出しています。

次の一歩が企業の未来を変えます。